抗がん剤治療中で、お客さまにも高座で自分は末期がんだとカミングアウト。そうして臨んだ落語が「浮世根問(うきよねどい)」でした。この演目は前座噺といって、とても軽い噺ですが、大病をカミングアウトした後とは思えない爆笑にわいた高座でした。15年以上の付き合いで、文都兄さんのやる浮世根問は初めて聞いたので「へ~、こんな演目も兄さん演るんだ!」と思って聞いていたのです。
後日、このエピソードをご一門の立川談春師匠に伝えると「お前それ文都兄さんがうちの師匠(談志)から最初に教わったネタだぞ」。つまり文都兄さんはその日、もう自分はこれが人生最後の高座になる。後悔のないように、師匠・談志に教えてもらい、一番苦労して最初に覚えた自分の原点にあたる噺を演(や)ろう。そう決めて臨んだ高座だったのです。人生の集大成に自分の原点を持ってきた。僕はそのことを知って鳥肌が立ちました。文都兄さんのお母さまにうかがったら体調がどんどん悪くなって、他の落語会のほとんどはお断りしたけれど「鴻巣寄席だけは自分は出たいんだ!」。そう言っていたようなんです。思い入れと覚悟の一席だった。
来てくれたのかも
だからこの写真のスープは、文都兄さんのイタズラ、あるいは兄さん自身があのスープに現れたのではないか? 僕にはそんなふうに思えたのです。ちょうどこのスープが現れたのは3月22日。お彼岸の時期と重なっていました。