種を植えて、芽が出ても、9月、10月という一番実り多き収穫の時期に全部台風に持っていかれ、農作物は壊滅的な打撃を受ける可能性もあるんです。それでも農家の方はめげずに春には再び種を植えていく。そういう繰り返しの中で生きているんです。
彼らは簡単にはあきらめないという強い精神を持っているのではないだろうか。彼らの精神世界を肌で感じました。
聞けば、奄美大島では10月に台風が来ることはあまりないそうです。だから種下ろしや集落の敬老会が催されるみたいなのですが、昨年(2013年)は本当に台風が多くて。私たちが10月中を撮影期間に設定したのも、9月で台風シーズンはある程度終わると聞いていたからなんですよ。
シナリオに台風の場面を入れたのも、ものすごい勢いで風が吹き付けて海の表情が変わっても、それを享受する人間のありようを描きたかったからです。凪の美しい世界と、人々の生命をも奪ってしまう荒々しいものが、「海」という1つの言葉のなかで毎日違う表情を見せ、音を奏でる。そんなことも映画では描けたと思います。