労使、激しい攻防へ 平成29年春闘に向け方針策定を開始

 

 平成29年の春闘に向けて労使双方が方針の策定作業に入った。安倍晋三首相が率先して経済界に働きかける「官製春闘」が定着する中、28年春闘では3年連続で従業員の基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)を実現。29年も4年連続での賃上げを目指す方針だ。ただ、経営側は首相が掲げる「働き方改革」に重点を置く構えを見せ、労働組合側とズレが出つつある。景気の足踏みが続き、先行き不安も拭えないこともあり、労使の激しい攻防が予想される。(平尾孝)

 経団連は、経営側の29年春闘の指針としてまとめる「経営労働政策特別委員会報告」の策定作業に入った。このほど開催された同委員会の会合では「今年を上回る年収ベースでの賃金引き上げ」に言及することを確認しており、「賃上げのモメンタム(勢い)を着実に継続」(経団連首脳)させる構えだ。

 ただ、会員企業の中からは「大企業の賃金を引き上げても国内消費の拡大にはつながっていない」といった意見もある。このため、経団連としては、29年の春闘では賃上げよりも、政府が進める「働き方改革」に対応した制度改革などの議論に踏み込む方針だ。

 労働組合の中央組織である連合は、神津里季生会長が28年春闘について「底上げのきっかけをつくれた」と総括し、今後も「持続性、継続性が重要だ」と強調する。15年ぶりとなる4年連続のベア実現に向け、「10月から議論を本格化」(神津会長)させる。

 28年春闘で、経団連は年収ベースでの引き上げに力点を置いた。連合は、賃上げによる個人消費の拡大に向けては、賞与の増加などよりも、月例賃金の引き上げの方が効果が大きいと主張。29年春闘でも「月例賃金にこだわり続ける」(連合幹部)方針だ。また、大企業よりも中小企業の引き上げ率を高めるなど、底上げも継続させる。

 労使ともに、デフレ脱却や経済成長のために賃上げが必要という点では一致し、経済環境は厳しいという認識も共有している。

 自動車総連の相原康伸会長は「円高進行や、英国の欧州連合(EU)離脱などの国際情勢で、不確実性が高まる」と指摘する。

 企業経営者からは、国内消費の弱さや世界経済のリスク拡大を懸念する意見が聞かれ、28年春闘の水準を上回る賃上げ率を確保することが「極めて厳しい」(大手メーカー首脳)といった見方も出ている。