旭化成建材が公表した都道府県別のリストで、傾いているマンションのデータを改竄(かいざん)した男性の現場管理者が関わった41件の物件が所在する9都県には衝撃が走った。「うちの市なのか」「いつ旭化成から連絡が入るのか」。業者への指導監督などを行う自治体の関係者は頭を抱え、中途半端な情報開示に不信感を増幅させている。
41件のうち半数以上の23件が確認された愛知県。集合住宅に絞ると、全国13件のうち9件を占める。しかし、県内のどの自治体かは分からず、名古屋市の担当者は「なんでこういった報告になったのか」と不満を口にした。
名古屋市の人口は愛知県の約3割の約230万人に上る。集合住宅に住む名古屋市民に不安が広がることも想定されるが、担当者は「もっと詳細なリストを出してもらわないと手の打ちようがない。国や旭化成建材が出さないのであれば、市に関する部分だけでも出すよう申し入れせざるをえない」と語った。県建築指導課の担当者も「県内の建物が含まれていると発表されただけでは対処のしようがない。書類改竄の有無など調査結果を速やかに出すべきだ」と指摘した。
現場管理者の手がけた物件が2件ある東京都。旭化成側の発表では「事務所」「工場・倉庫」としか分からず、担当者は「規模や場所が分からない以上、都か区か市か、どこが管理・監督権限を持つのか分からない」。
千葉県でも「用途不明」の1件が確認された。担当者はこの日、「旭化成建材側に詳細を問い合わせている。国や、建築に関する権限を持つ県内12市と情報共有しながら確認する」と説明した。
公共施設1件がある茨城県によると、リスト公表直後に問い合わせたが、同社は個人情報などを理由に公表を強く拒否したという。県建築指導課の担当者は「公の施設であり、行政として知らなければ対応できない」とした上で、「不特定多数の人が出入りするような施設かどうかも分からない。どうすれば把握できるのか、そのやり方から検討しなければならない」と憤った。
現場管理者が関わった物件はゼロの自治体でも不安感は残る。福島県内で旭化成建材がくい打ちで携わった物件は87件。うち学校は13件あり、県教委の担当者は「旭化成建材については全て工事の状況を確認しないといけない」とした上で、「旭化成建材は速やかに関係自治体に情報開示すべきだ」と求めた。
元請け業者も困惑する。東京都内の設備工事請負業者は3年ほど前から、全国で展開する太陽光発電パネル設置のくい打ち作業を旭化成建材に任せており、その件数は数十件に上る。
今回の発表内容に含まれているかも分からない状況といい、担当者は「『旭化成』ブランドだからこそ信用したのに、今回のようなことになった。何を基準に下請け業者を選んだらいいのか」と首を振った。