横浜市都筑区のマンションが傾いている問題で、旭化成建材がくい打ち施工を行った約3000件のリストが22日、公表された。過去約10年間に行った工事は全国の住宅や学校など広範囲に及んでおり、大きな不安が広がる。親会社の旭化成は原因究明と再発防止策の構築を目指すが、問題の背景に「工期の短さ」「下請け業者の立場の弱さ」を指摘する声も上がる。再発防止に向けた作業は緒に就いたばかりだ。
「工期のためなら、土日かまわず突貫工事で仕上げなければいけない」。東京都内の外装業者の40代の男性は建設現場の状況をこう話す。2次下請けとして受注することが多いが、「工期厳守」は最低限守らなければいけないルールだ。
問題のマンションは、三井住友建設が元請けとなって販売主の三井不動産レジデンシャルから受注したが、日立ハイテクノロジーズや旭化成建材が下請けとなっていた。マンション建設では測量、基礎工事に始まり、鉄筋、型枠、外装と多くの行程が連なる。元請けにとっては専門分野を持つ業者を工事の規模に合わせて参集できるメリットがある。
一方、「元請けには都合の悪いことを言い出しにくい雰囲気がある」と、東京都内の建材商社の男性は打ち明ける。工期の遅れや経費の増加は「下請けでごまかしたくなる」という。
「くい工事は建物の一番基礎の部分。最初で一日ずれると、その後の調整が大変。現場にはプレッシャーがある」と話すのは、榊マンション市場研究所主宰の榊淳司さん。
問題のマンションで、地盤強度などのデータ改竄(かいざん)は旭化成建材の男性管理者が行っていた。473本のくいが打たれたのは平成17年12月~18年2月だが、深度が足りなかった8本は2月下旬に施工されていた。
旭化成は今後、くいの状況を確認することで真相を解明する。3千件のデータについても膨大な解析作業と実地調査が必要だ。
いずれの工事も建築確認は市区町村や確認検査機関が実施していたが、虚偽データを出されればチェックは困難。国交省は三井住友建設などが建設業法に、三井不動産レジデンシャルが宅建業法に抵触する疑いがあるとみて調査している。
再発防止策として、専門家からは元データの提出義務づけや現場監視の強化などが挙げられているが、よこはま建築監理協同組合理事長で田中正人・一級建築士は「建築物の瑕疵(かし)責任は建設会社だけが問われることが多い。消費者は建設業者を選べないのだから、建設業者を選ぶ販売会社の責任をより重くする法整備があってもいい」と話す。
「悪いのは個人か企業か、業界ぐるみか、分からなくなっていくばかりだ」と旭化成の調査に疑問を呈するのはコンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士。「聞き取りは第三者に任せた方がいい。耐震強度偽装事件では設計ばかりを厳しくしたが、根本的な問題である“現場”を洗い直すべきだ」と方向性を示した。