予想以上のさび
石油列車の運行の前に、レールは磨き上げられているが、震災以降ほかの列車が走っていないだけに予想以上にさびが発生し、ただでさえ乏しい摩擦係数を引き下げたのかもしれない。遠藤さんは無線を取り、会津若松駅司令室を呼び出した。「空転しつつ運転を継続するも、ついに止まってしまいました。救援要請します」。できるだけ冷静に告げたが、悔しさが込み上げてきていた。
会津若松駅の指令室には、駅長(当時)の渡辺光浩さんらJR東の職員数人が集まり、運行情報表示装置で石油列車の運行を見守っていた。同装置は列車が信号機などを通過するたびに画面に表示されるもの。なにごともなければ一定のテンポで画面が動いていく。磐梯町付近で画面の動きが遅くなると、職員から声が上がった。「頑張れ。登れ、止まるな」。しかし、翁島近くの更科信号所を列車が通過したデータは受信されず、画面は動かなくなった。「止まったか? 雪だな、たぶん」
間もなく無線で救援要請が寄せられた。「了解しました。救援車両を派遣しますので、待っていてください」。駅長の渡辺さんが指示を出す。「DE10、準備いいな」。「いつでもいけますよ」。部下の声が心なしか弾んでいた。