工場で製造された部品は日本の大手情報機器メーカーに供給されていた。工場が稼働しなくなれば製品の輸出はストップし、現地法人が多大な損害を被る可能性があった。
元専務はフタバ産業の中国進出を推進した人物。当時はフタバ産業の取締役と現地法人の社長を兼務し、営業から地方政府との折衝にいたるまで事業全体を統括していた。
税関当局の指摘に焦った元専務は、危機的状況を脱するため、逮捕容疑にもなった“奥の手”を使う。07年12月、広東省内の高級中華料理店で、地方政府の幹部に約3万香港ドルと高級ブランドのバッグを手渡したのだ。現金は当時のレートで約45万円、バッグは約15万円。工場の不正を黙認するよう求める趣旨だった。
賄賂を受け取った幹部は「鎮(ちん)」と呼ばれ、日本では村や町にあたる行政単位のナンバー3。税関職員とともに貿易を監督したり、証明書を発行したりする権限を持っていた。元専務の贈賄工作は成功し、工場の罰金額は大幅に減り、操業停止などの処分が課されることもなかったが、後に贈賄が露見し、逮捕されることとなった。