懸念される五輪至上主義の風潮 ゴルフ松山とテニス錦織…分かれた判断
スポーツi.リオデジャネイロ五輪は中盤を迎え、1904年のセントルイス大会以来、112年ぶりに復活したゴルフが11日から始まるものの、男子は有力選手の出場辞退で飛車角落ちとの声が聞かれる。
ジェイソン・デイ(豪州)、ダスティン・ジョンソン(米国)、ジョーダン・スピース(同)、ローリー・マキロイ(英国)のトップ4が中南米で感染が広がるジカ熱や治安上の不安を理由にリオ行きのチケットをキャンセルした。
全米プロ選手権で4位に入るなど世界の強豪と熾烈な戦いを繰り広げている日本の第一人者、松山英樹もその一人。過去、虫刺されでプレーに大きな影響を受けた苦い経験をしていることもあって、五輪代表回避を表明した。
現実的判断で辞退
この選択に対して「本当にジカ熱が理由なのか」「メダル獲得のチャンスを自ら放棄するとは」との見方がある。
松山は毎週のように大会に出場して、しのぎを削っている。厳しい日程に五輪を折り込めば、さらなる負担がかかるので辞退するというのは現実的な判断である。
ツアー観戦を楽しみにしているファン、心身ともにケアしてくれるスタッフのためにもリスクをとりたくないのは理解できる。
8月下旬からは、米ツアーの年間王者を決めるビッグな大会が予定されている。1000万ドル(約10億円)のボーナス獲得に目の色を変えるのは、プロゴルファーなら当たり前である。これを利己主義と批判するのは、いかがなものか。
テニスは世界No.1のノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マリー(英国)、錦織圭らがリオ入りしている。その一方で、世界ランク4位のスタン・ワウリンカ(スイス)、今年のウィンブルドン準優勝のミロシュ・ラオニッチ(カナダ)らはハードスケジュールと五輪がランキングポイントの対象外ということもあり見送った。
ジョコビッチはリオ五輪男子シングルス初戦で、世界ランク141位のフアンマルティン・デルポトロ(アルゼンチン)にストレート負けを喫してしまった。どれくらいのモチベーションで臨んだろうか。
やり玉はお門違い
リオ五輪に出るか出ないかで、ゴルフの松山とテニスの錦織の判断が分かれた。プロスポーツマンとして、それぞれが熟慮を重ねて出した結論を尊重したい。
懸念されるのは2020年東京五輪招致が決定してから、わが国に五輪至上主義の風潮が強まっていることである。国家的プロジェクトだから、協力するのは当たり前、水を差すような動きは排除されなければならない、との流れがある。もし、その立場で松山をやり玉に挙げるとしたら、お門違いである。
20年大会の追加種目に入り、喜びに沸く野球界だが、プロ野球のオーナー会議は五輪期間中に公式戦を中断する基本方針を決めた。議長を務めた阪神の坂井信也オーナーは「国家イベントとも言える五輪に全面的に、でき得る限りの協力をする」と述べた。
もちろん、大規模なペナントレースの中断は初めて。夏休み期間中で観客動員が見込める時期だが、坂井オーナーは「野球界にとっては稼ぎどきだが、(全面協力という)趣旨で検討していく」とも付け加えた。
東京五輪組織委員会がプロに限らずアマチュアにとっても聖地である神宮球場を五輪期間中、荷物置き場に借用する件が明るみになった。随分、軽くみられたものだが、球界側は組織委の謝罪をあっさり受け入れてしまった。
20年シーズンはどうなるのだろうか。五輪よりもプロ野球を見たいというファンもいる。参加する国・地域は6チームに限られ、どのような方式で選ぶか決まっていない。米国人のメジャーリーガーは五輪への関心が薄いので、参加を見合わせるとみられる。
話を戻すと、松山には4年後もトッププロとして活躍していてほしい。開催国なのだから出場するのは当然という中、どのような判断を下すのか。
さまざまな事情、思いがあるからこそ、周囲ではなく、本人が決める。選手第一、アスリート・ファーストの精神が問われている。(津田俊樹)
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