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失敗に終わったイラクの「実験」

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失敗に終わったイラクの「実験」

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米マサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島  【アメリカを読む】

 「Then Golfing」(それからゴルフをした)

 バラク・オバマ米大統領(53)が8月20日、ゴルフをしたことを多くの米メディアはこう報じた。保守系メディアはもちろん、日頃はオバマ氏に優しいリベラル系の主要メディアまでが批判的なトーンを込めてこの一言をキーワードのように使った。何が問題だったのか。

 英首相は休暇を中断

 その日、オバマ氏は夏休みを過ごしていた米東部マサチューセッツ州マーサズ・ビンヤード島で、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による米国人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリー氏(40)の殺害を非難する声明を発表した。その直後にゴルフをしたことを、メディアは次のように伝えた。

 「フォーリー氏の家族に哀悼の意を伝え、イスラム国を非難し、それからゴルフをした。10日間で7回目だった」(ワシントン・ポスト紙)

 「残酷な殺人で『深く傷ついた』と述べ、イスラム過激派が他の米国人の生命を脅かすなら『容赦しない』と誓った。だがカメラが引くとすぐ、お気に入りのゴルフコースに向かった」(ニューヨーク・タイムズ紙)

 ニューヨーク・タイムズ紙はオバマ氏をはじめとする歴代大統領周辺の話として、大統領という冷徹な判断が迫られ、地球上で最もストレスの多い職務を全うするには公私の壁を作り、「死」を扱った直後に心身を解放する切り替えが必要であると指摘している。テロリストたちの脅しで大統領がうろたえている印象を与えたくないという思いもあるのだろう。

 オバマ氏の「ゴルフ三昧」はすでにここで書き、スポーツをすること自体は奨励されるべきなのでこれ以上は触れない。ただ、フォーリー氏を殺害したテロリストが英国人である可能性が出たためデービッド・キャメロン英首相(47)が休暇を中断したことや、広島市の土砂災害で安倍晋三首相(59)がゴルフを中断して都内に戻ったことと対照的であったことは指摘しておきたい。

 平時の振る舞い

 ここへきて「大統領のゴルフ」が殊更に取り上げられるのは、イラクやシリアで進行している事態を食い止めるため米軍が実行していることとの落差があまりにも大きいからだろう。

 オバマ氏はジョージ・W・ブッシュ前大統領(68)が始めたアフガニスタン、イラクでの2つの戦争の完了を自らの成果として2017年1月までの任期を終えようとしているため、イラクへの地上戦闘部隊の投入は否定している。

 しかし、「米国市民の保護」やイラク軍への助言、訓練を目的に駐留する米軍は増派を重ね、1万人を超えようとしている。戦略的な要地への空爆も続行中だ。作戦は失敗に終わったが、フォーリー氏らの救出のため、シリア領内に特殊部隊を送り込んだことも認めた。

 イラクで挙国一致内閣発足の動きが本格化したのを受け、イスラム国との戦いにおける米国の存在感は確実に増している。それでもオバマ氏は平時の振る舞いを変えようとしない。ブッシュ氏が03年、イラク戦争開戦に際し、ゴルフ断ちしたのを意識しているのではないかと勘ぐりたくもなる。

 ヒラリー氏の問い

 一時中断を挟んだ(8月)9日から(8月)24日までの夏休み期間、オバマ氏はマーサズ・ビンヤード島を訪れたヒラリー・クリントン前国務長官(66)とパーティーで顔を合わせた。その直前、クリントン氏が米誌アトランティックのインタビューで放った現政権批判はオバマ氏に本質的な問いを突き付けた。

 「今、イスラム聖戦主義者たちが埋めている大きな真空を残してしまったのは失敗だった」

 オバマ氏を支えたクリントン氏にも責任の一端はあり、政権が主張するように11年の米軍の完全撤退前にイラク政府が駐留米軍に関する地位協定の延長を拒否したため、イラク軍に訓練を施せなかったことも確かだ。しかし、撤退後にイスラム国の台頭を招いたのはヒラリー氏のいうように「失敗」だった。

 オバマ政権がイスラム国の動きを封じる戦略を立てられるかは、イスラム原理主義勢力タリバンが活動するアフガンにも影響する。オバマ氏は今年5月、16年末までにアフガンから米軍を撤退させると発表したが、2年間余りでアフガン軍を独り立ちさせられるのだろうか。

 「過去3年間のイラクに答えはあるのに、オバマ氏は実験を繰り返そうとしている」

 ワシントン・ポスト紙は8月22日付の社説でこう指摘した。(ワシントン支局 加納宏幸(かのう・ひろゆき)/SANKEI EXPRESS

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