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原則なきオバマ外交が図る「イラク化」

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原則なきオバマ外交が図る「イラク化」

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イラクをめぐる隣国の構図=2014年6月25日現在  【アメリカを読む】

 バラク・オバマ米大統領(53)がイラク北部でイスラム教スンニ派の過激組織「イスラム国」に対する空爆に踏み切った8月8日はリチャード・ニクソン元大統領(1913~94年)の辞意表明から40年の節目だった。ベトナム戦争からの撤退戦略を掲げた1969年のニクソン・ドクトリンは南ベトナム自身に防衛を担わせる「ベトナム化」を狙った。オバマ氏も「イラク化」を志向しているが、長期的な戦略に基づくドクトリン(外交原則)があるとは言い難い。

 ツイッターで空爆公表

 米CNNテレビは8日朝、イラク空爆を速報した。情報源は米政府による公式の発表でもオフレコ情報でもなく、国防総省のジョン・カービー報道官がツイッターで発した一言だった。

 「米軍用機がイスラム国の火砲への攻撃を実施した。火砲は、米政府要員に近接して(イラク北部)アルビル防衛に当たるクルド自治政府の部隊に対して用いられたものである」

 カービー氏による簡単な「つぶやき」から数十分後に、国防総省はFA18戦闘攻撃機2機がレーザー誘導弾で移動式火砲を攻撃したことを公表した。

 その数時間前の7日深夜に、オバマ氏はホワイトハウスで声明を発表していた。

 北部シンジャールでイスラム国の攻勢によって山頂に追い詰められたクルド民族に対する人道支援物資の空中投下を行ったことと、「イスラム国のテロリストによって米政府要員やアルビルの領事館やバグダッドの大使館を含む施設が脅かされた場合」に限定的な空爆実施を命じたことが声明の柱だった。

 「軍事力の使用ほど真剣な検討を要する決定はない」

 オバマ氏は声明でこう強調した。自ら人道支援のための空中投下を発表する一方、2011年末にイラクから米軍が撤退して以来の軍事行動をツイッターで公表させたことは、今回の空爆と本格的な「軍事介入」との間に一線を引こうとするオバマ政権の意思の表れといえる。

 場当たり的な「介入」

 「イラク国内の状況によって必要と判断した場合には標的を絞った正確な軍事行動をとる準備がある。ただ、最も効果的にイスラム国の脅威に対抗するには、イラク軍が主導することが必要であると強調したい」。

 オバマ氏は6月19日、イラク軍支援のため最大で300人の軍事顧問団の派遣を発表した記者会見でこう述べていた。米政府はそれから2カ月近く、イラク軍の支援とともに、シーア派主導の政府を率いるヌーリ・マリキ首相(64)の退陣を視野に包括的な新政権づくりに向けた外交努力を続けてきた。

 オバマ政権は空爆を否定していなかったが、今回、イラク軍を支援するためではなく「米政府要員」を保護する目的で実施したことは、イラク軍への「訓練、助言、支援」によって作戦能力を高め、イスラム国に対抗させるという原則から一歩踏み出した形となった。

 声明で、オバマ氏は地上戦力の投入を明確に拒んだが、イスラム国の攻勢によっては決断を迫られることも否定できない。今回の「介入」がイラク、シリアで勢力拡大を図るイスラム国の攻勢を食い止める戦略に基づくのか、それとも特定地域の戦況を改善しようとしたものなのかが不明だからだ。

 戦略家不在の悲劇

 69年にニクソン氏が発表した「ニクソン・ドクトリン」は、(1)アメリカは条約義務を守る(2)核大国が同盟国や米国の安全にとり重要と考える国の自由を脅かす場合には「盾」を提供する(3)その他の侵略に関しては条約義務に応じて求められれば軍事、経済支援を提供するが、国防は当事国が一義的責任を負う-との内容だった。

 オバマ氏が今年5月に軍事よりも外交を重視するとの外交方針を発表した際、米国ではニクソン・ドクトリンに重ね合わせる論調が目立ったが、外交専門ウェブ誌「ザ・ディプロマット」の共同編集者、ザカリー・ケック氏は別物であると論じた。

 「ニクソンとキッシンジャー国家安全保障担当大統領補佐官はベトナム戦争後に米国が海外で展開できる軍事力の減少を認識し、ソ連との緊張緩和や米中和解を実現した。だが、オバマ政権は敵対国との緊張を減じる真剣な努力をしていない」

 大戦略なく「場当たり」を続けるオバマ政権と向き合う外交筋は「オバマ氏の悲劇はキッシンジャー氏のような戦略家が近くにいないことだ」と嘆いた。(ワシントン支局 加納宏幸/SANKEI EXPRESS

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