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型にはめず、意外性のある物語を渇望している 映画「ヴィクとフロ 熊に会う」 ドゥニ・コテ監督に聞く

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型にはめず、意外性のある物語を渇望している 映画「ヴィクとフロ 熊に会う」 ドゥニ・コテ監督に聞く

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「全編が黒でも、白でもなく、ドラマですらない、灰色の陰影が覆っているんだ」と自作を紹介するドゥニ・コテ監督=2013年11月4日(アルシネテラン提供)  各地の国際映画祭を盛り上げる注目すべきカナダの映画監督といえば、ドゥニ・コテ(40)もその一人。2013年ベルリン国際映画祭では、コテ監督の新作ドラマ「ヴィクとフロ 熊に会う」が「新たな視点」をもたらした作品に贈られるアルフレッド・バウアー賞(銀熊賞の一部)に輝いたのを記憶する映画ファンもいるだろう。

 通常のドラマを強調

 物語は文字通りどこか毛色の違ったもので、刑務所で知り合い、老境に差し掛かった元囚人の女性同士の恋愛模様が丁寧に描かれている。脚本も執筆したコテ監督はSANKEI EXPRESSのメール取材に対し、「僕はひねりの利いたユーモアの持ち主だし、社会にも関心を持っているよ。だからか僕の映画は自伝的経験に基づくものとはならない。僕は型にはめず、意外性のある物語を渇望しているんだ」と声を大にした。

 気がつけば60代となっていた元囚人のヴィクトリア(ピエレット・ロビテーユ)。再びまともな人生を取り戻そうと、保護司ギョーム(マルク=アンドレ・グロンダン)の保護のもと、田舎にある砂糖小屋で、刑務所時代の仲間で恋愛関係にあったフロレンス(ロマーヌ・ボーランジェ)と一緒に暮らし始めた。だが集落の人々は2人の出現に違和感を示し…。

 「異性愛者」を公言してるコテ監督がなぜレズビアンを主人公に据えたのかは気になるところだが、「主人公がレズビアンかどうかはまったく問題ではありません」としたうえで、「作品は、出所後の新しい環境で、たまたま激しく愛し合うようになった2人の物語にすぎないからです」と通常のドラマを強調した。だから、同時期の話題作で、若いレズビアンの純愛を描いた2013年カンヌ国際映画祭における最高賞パルム・ドール賞の受賞作「アデル、ブルーは熱い色」(フランス、アブデラティフ・ケシシュ監督)は自作とは別系統であるとの認識を示し、関心もなさそうだ。

 また、コテ監督は視聴者の先入観を取り除こうと主人公2人を取り巻く複雑な背景にも言及し、「刑務所ではほとんどの女性が身を守るために同性とカップルにならなければならない。刑務所を出ても女性によっては、同性と一緒にいることが居心地よくて2度と男と関係を持とうとしない者もいるし、すぐに新しい男を見つけたいと考える女もいます」と補足説明をした。

 悲しいだけじゃない

 説明がないと、誤解や偏見を招きかねないのは物語だけではない。タイトルも一見、子供向けのおとぎ話のようで、人生の悲劇を描いた本作のテイストからはかけ離れたものだ。監督の意図はこうだ。「僕は人に誤解させるようなタイトルが好きなんだ。タイトルからはヴィクとフロの男女の区別もできませんよね。そして作品には多くのユーモアとブラックユーモアが詰まっています。ただ単に悲しいだけの映画じゃないですよ」。なかなか癖のある監督だ。8月17日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Denis Cote 1973年11月16日、カナダ・ニューブランズウィック地方生まれ。映画評論家として活動を始め、実験的短編を製作。2005年の長編デビュー作「Les etats nordiques(原題)」でロカルノ国際映画祭ビデオ部門の金豹賞に輝く。10年「Curling」はロカルノ国際映画祭で監督賞と男優賞の2冠を獲得した。

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