SankeiBiz for mobile

悠久の時間、静寂さを感じて フィリップ・グレーニング監督インタビュー

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

悠久の時間、静寂さを感じて フィリップ・グレーニング監督インタビュー

更新

「映画を見ると言うより、教会で厳かな時間を過ごすという感覚になるはず」と語るフィリップ・グレーニング監督=2014年5月7日、東京都千代田区(宮崎瑞穂撮影)  □ドキュメンタリー映画「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」

 構想から21年、完成までに気が遠くなりそうなほど月日を要したドキュメンタリー「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」には、フランス・アルプス山脈にひっそりとたたずむカトリック教会の男子修道院の日常が描かれている。初来日したドイツのフィリップ・グレーニング監督(55)はSANKEI EXPRESSの取材に「この修道院はフランスでは知られた存在だが、長きにわたり修道士たちの生活ぶりはベールに包まれていたんだ」と紹介し、本作製作の歴史的な意義を強調した。

 修道院で撮影が許されたのはグレーニング監督ただ一人のみ。照明を使ったり、映像にナレーションやBGMを流すことは厳しく禁じられたが、グレーニング監督は「まったく問題なかった。そんな作品を作りたかったからね」と意に介さない。製作期間のみならず、上映時間も2時間49分と気が遠くなりそうなほど長い本作で、グレーニング監督が心を砕いたのは「映画を見る人に、修道院の内部でゆったりと流れる悠久の時間、静寂さ、沈黙を実際に感じてもらうこと。映画館=修道院の空間を作り出すこと」。その意図は「音がない世界だからこそ、実は現代人のわれわれには見えにくい真実が見えてくるのではないか」との見立てにあった。

 16年後に撮影許可

 グレーニング監督がこの修道院に着目したのは1984年ごろ。資料をひもとくうちに、男性修道士たちの信仰の純粋さと、精神生活の充実ぶりをうっすらと感じ取ることができ、現代人の知り得ない神秘的な世界への憧れを強めたからだ。86年に実際に修道院へ足を運ぶと、当初描いていた通りの暮らしぶりが目に飛び込んできた。84年から何度か撮影許可を求めてきたが、修道院側の返事は「時期尚早」と答えるのみ。「準備が整った」と撮影許可が下りたのは、実に16年後の2000年のことだった。

 修道院側が方向転換した理由は、思いがけずグレーニング監督の映画化の狙いと軌を一にしている。修道院側の説明はこうだ。「世間から隔絶された世界で暮らす修道士たちは、現代社会を照らす灯台として存在しており、それは彼らが担う機能でもある。彼らの生活から見えてくるものを映画という形で紹介してほしい」。撮影は02年春からスタート、半年に及んだ。

 映画化へ向けたグレーニング監督の粘り腰は、日ごろ感じていたヨーロッパ人としてのアイデンティティー危機も背景にあったという。「ヨーロッパ人は本来、キリスト教と密接な関係にありました。でも現代では、両者の関係が壊れかけ、希薄になっているように思えてならなかった。この映画を通して僕はヨーロッパ人として両者の関係を修復したいと考えたのです」。公開中。(文:高橋天地(たかくに)/撮影:宮崎瑞穂/SANKEI EXPRESS

 ■Philip Groning 1959年4月7日、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。俳優、脚本家、助監督、サウンドアシスタントのキャリアを積む。88年「Sommer」で長編監督デビュー。2作目の92年「Die Terroristen!」でロカルノ国際映画祭銅豹賞、最新作「警察官の妻」で2013年ベネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。

ランキング