SankeiBiz for mobile

【まぜこぜエクスプレス】Vol.15 震災乗り越え、絵で人を笑顔に

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのトレンド

【まぜこぜエクスプレス】Vol.15 震災乗り越え、絵で人を笑顔に

更新

六本木ヒルズumuでのアート展「つながる。それから?」で展示された作品を前にポーズをとる塗敦子(ぬり・あつこ)さん(左)と一般社団法人「Get_in_touch」理事長の東ちづるさん=2014年5月10日、東京都港区(山下元気さん撮影)  キュートでポップな画風が人気のアーティスト、塗敦子(ぬり・あつこ)さん。彼女が活動する宮城県仙台市の通所型福祉施設「こぶし」は、東日本大震災で被害を受け、2013年に再建された。ようやく日常を取り戻した彼女の作品展示販売会が、東京都港区のレストラン「元麻布東郷」で開催されている。

 出会いは2011年夏

 塗さんの作品と出会ったのは2011年。東日本大震災のあった年の夏だった。

 その年の3月末に、私は障がいのある人のアートチャリティー展『よりそう』を立ち上げ、東京や広島など、そして被災地では福島のいわき、宮城の石巻、仙台で開催した。

 仙台のデパートで展示準備中、ある美術家に声をかけられたのだ。「地元、仙台にも素晴らしい絵を描く女性がいますよ」と。

 聞けば、塗さんは知的障がいのある人の自立を目的にした社会福祉法人「仙台市手をつなぐ育成会」が運営する「こぶし」に通いアート活動をしていたが、震災で施設は全壊。彼女の作品を収めていた段ボールも棚から飛び出した物品の山に埋もれてしまっていた。

 職員は人命を守ることに必死で、利用者とともに、取るものも取りあえず近くの小学校に一晩身を寄せた。そして1カ月の自宅待機の後も、神社の社務所や取り壊し予定の建物を転々としながら、拠点を探し続けることになる。アート活動どころではなかった。

 だが、塗さんの作品は救い出され、守られていたのだ。彼女の才能を知るその美術家の手によって。

 展示準備の手を止め、何百枚もの塗さんの作品を見せてもらった。すぐさま展示のレイアウトを変更した。

 こんな作品を生みだすアーティストや、その活動拠点である障がい者施設の存在を地元の多くの人が知らない。才能が開花するのには、きっかけやチャンスが必要だ。

 塗さんの作品は好評だった。展示する先から売れた。彼女の家族は「全額を施設の再建費にあててほしい」と寄付を申し出た。

 即興の東京タワー

 作品は、6月に六本木ヒルズumuで開催したアート展『つながる。それから?』でも、たくさんの人の心を和ませ、笑顔にした。

 そしてサプライズもあった。塗さん家族がはるばる仙台市から会場にやってきてくれたのだ。彼女は、自分の作品に囲まれて「うれしい!うれしい!」と拍手。一緒に写真を撮った後、即興で東京タワーを描いてくれた。

 このことを知ったこぶしの職員さんは今でも驚いている。

 いつも彼女はモノクロ写真を手本に絵を描く。カラー写真も必ずモノクロでコピーする。けれどもこの日は特別だった。その場にあったカラー写真を見ながら、いつもとは違う、しかも不特定多数の人がいるザワザワした場所で、「フフン~」と鼻歌交じりに、伸び伸びとした線を重ね、迷うことなく色を編むように載せていく。絵を描く彼女があまりに楽しそうで、会場にいた子供たちも、私たちスタッフも一緒に描いた。ふんわりとした空気が漂い、とても穏やかな時間だった。そして彼女はいつものように「できたー!」とかわいい声をあげ、ニカッと笑った。拍手が自然と起きた。

 こぶしは、仙台市八木山市民センターで2年を過ごし、13年に仙台市の鹿野復興公営住宅の敷地内に再建された。塗さんは今日もいろいろな作業をするみんなに囲まれながら、鼻歌交じりに絵を描いている。(女優、一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/撮影:フォトグラファー 山下元気/SANKEI EXPRESS

 【ガイド】

 塗敦子さんの作品は現在、レストラン「元麻布東郷」(東京都港区元麻布1の3の2)で展示販売中。詳細は(電)03・3456・1861。

ランキング