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【まぜこぜエクスプレス】Vol.11 光の当たらない人が主役 映画通じ生きづらさを考える

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【まぜこぜエクスプレス】Vol.11 光の当たらない人が主役 映画通じ生きづらさを考える

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映画「幸せのバランス」のポスターを前に、豪放磊落に話す比嘉セツさん(左)と東ちづる(山下元気さん撮影)  キューバやメキシコなど主にラテンアメリカの映画を買い付け、邦題を考え、日本語字幕をつけ、上映を交渉し、チラシやパンフレットを作り、営業・広報・DVD化も手がけ…。全てを比嘉セツさん(アクション代表)はひとりでやってのける。八面六臂(ろっぴ)どころではない。映画にかける彼女の原動力は何なのか。

 ガハハと笑い飛ばす

 比嘉さんが信念と情熱の人だということは、ちょっと話せばすぐに分かる。たとえ失敗しても間違っても、ほとんどのことは天をあおぎ大きく口を開けガハハと笑い飛ばす。豪放磊落(らいらく)だ。しかし、涙もろい。そして、その口から発せられる映画への思いは、センシティブで鋭い。

 彼女が初めて配給した映画はキューバ作品『永遠のハバナ』。さまざまな普通の人が映し出されるが、せりふがなく、ドラマチックな何かも起らない。演出もないように見えて、しかしドキュメンタリーでもない。そしてラスト。それぞれの表情、夢が伝えられる。切り取られた一部は永遠のハバナ。この現実もラテン…。キューバ映画といえば『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』ぐらいしか知らなかった私は「ラテン=陽気で明るい=ケ・セラセラ!」という思い込みが恥ずかしくなった。

 その後も彼女は市井の人々を描いた映画を配給し続けている。タンゴも恋愛も出てこないアルゼンチン映画『今夜、列車は走る』では失業した鉄道員たちと家族が描かれ、サッカーもカーニバルも出てこないブラジル映画『聖者の午後』はニートの30代が主役だ。

 もう一度見たくなる

 「ステレオタイプの映画には興味がない。光が当たらない人たちに興味があるから」と比嘉さんは語る。そして、「映画を配給するのは、日本に住んでいると私が生きづらくてしかたないから。だけど、神戸に両親もいるし、まだ日本を離れられない。アハハハー」と笑う。比嘉さんから「生きづらい」という言葉が出てきたのは意外だった。これまでケニアやキューバ、メキシコなど色んなところで生活経験がある。「好きなことしかしない」ときっぱり言う彼女でさえ、今の日本は自分らしく自由に生きていけない場所なのだ。

 彼女が配給する映画はどれも今の日本の現状と重なっている。だから、エンドロールが終わってすぐには立ち上がれない。しかも、ボディーブローのようにじわじわ効いてくるので、一度見たら忘れられない。そしてもう一度見たくなるのだ。なぜなら考えさせられるから。「何が言いたいのか分からなかったという評論家や観客もいる。感じ取ろうとしない人がいることにビックリする。説明してくれる親切な映画に慣れすぎてるんだろうね。ま、そういう映画の方が当たるんだろうけど。アハハハー」。やっぱり笑う。ラテンだ。

 父の日の前日の(6月)14日から、「新宿K’s cinema」で5週間公開されるのは、イタリア映画『幸せのバランス』。磊落だった父親があることから妻に三下り半を突きつけられ、ホームレスに転落。そこで娘は、妻は…。家族って? 人生って? 比嘉さんが発信する映画は私たちに問い続ける。(一般社団法人「Get in touch」理事長 東ちづる/SANKEI EXPRESS

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