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生命を危険にさらす撮影と分かっていた フランソワ・クリュゼ 映画「ターニング・タイド 希望の海」

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生命を危険にさらす撮影と分かっていた フランソワ・クリュゼ 映画「ターニング・タイド 希望の海」

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 寝たきりの富豪と貧民層の介護人の交流をコミカルに描いたフランス映画「最強のふたり」(2011年)が世界的に大ヒットしたことで、もうこのフランス紳士の顔はご存じかもしれない。見るも痛々しい富豪から一転、フランソワ・クリュゼ(58)は次なる主演作「ターニング・タイド 希望の海」(クリストフ・オーファンスタン監督兼共同脚本)で、ヨットレースに挑む屈強の男を演じてみせた。

 ヤン(クリュゼ)は4年に1度開催される「単独、無寄港、無援助」を条件に世界一周のタイムを競う最も過酷なフランスのヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に出場する。途中、船を修理しようとカナリア諸島沖で停泊した際、あろうことか、自称「モーリタニア人」の16歳の少年、マノ(サミ・セギール)がこっそりとヨットに乗り込んでいたことに気づく。失格になることを恐れ、怒りにまかせて、少年を大海原に沈めてしまう-というわけにもいかず、レースの続行を決断したが…。

 荒れる海に肝冷やし

 もともとクリュゼは冒険映画が大好きらしい。確かに「最強のふたり」では、クリュゼ扮する富豪がスカイダイビングに挑む場面もあり、ファンを驚かせた。「幼い頃はアクション映画に出演することもいいなと思っていましたよ。でも、俳優として過ごした40年ものキャリアを振り返ってみると、どちらかといえばとてもセンチメンタルな恋愛物語をオファーされることが多かったですね」。今ではいろんなジャンルの役柄を演じてみたいとの思いが強く、アクションも恋愛もどんどんこなしていきたいそうだ。

 撮影の大半を海で過ごしたクリュゼだが、ときに荒れ狂う海には何度も肝を冷やした。トレーナーのもとで十分に準備を積んだとしても、ヨットの操縦が初めてとあっては、どんな名優でも、とても演技に集中できたものではない。「生命を危険にさらす、とてもリスクの高い撮影だとは、あらかじめ分かっていました。実際、波が6、7メートルもあるところでの撮影もありました。海に投げ飛ばされてしまうのでは、と恐怖に襲われたこともありますよ。なにしろ僕は撮影で救命胴衣を着ていなかったんですからね」。船酔いは一度もなく、体調管理に苦労しなかったのは“不幸中の幸い”だった。

 自分ならどうしますか?

 ヨットレースの最中に競技者たちが一番起きてほしくないと考えるのが、ヨットへの“闖入(ちんにゅう)事件”だ。実際、何者かがヨット内に無断で立ち入ったものの、出発前に降ろされ、競技者が失格にならずに済んだこともあったという。「もちろん、闖入者を海に落として素知らぬ顔で航行を続けたとしても、誰にも知られることはないだろうし、失格にもならないでしょう。でも、現実的にそんなことはできません」。だからこそ、クリュゼが作品で注目してもらいたいのは、レースの行方ばかりを考え、一度は冷静さを失った男の感情の変化だという。「ヤンはだんだんと少年との間に温かな感情をかよわせていく。また、自分や自分の息子が少年の立場だったら…と考え始めると、人間的な心も芽生えてくる。そんなヒューマニズムこそがテーマであり、観客には『自分ならどうしますか?』と問いかけているのです」。公開中。(高橋天地(たかくに)/SANKEI EXPRESS

 ■Francois Cluzet 1955年9月21日、パリ生まれ。17歳の時、演劇学校で演技を学び始める。76年に舞台デビュー、テレビドラマにも出演。83年には、「殺意の夏」でセザール賞助演男優賞に、「Vive la Sociale!」でセザール賞有望若手男優賞にそれぞれノミネート。2006年「唇を閉ざせ」でセザール賞主演男優賞、仏を代表する俳優となる。

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