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進む「脱労働力化」 経済成長の足かせに

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進む「脱労働力化」 経済成長の足かせに

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 米国の労働市場で「脱労働力化」への懸念が強まっている。人口に対する労働力人口の比率が36年ぶりの低水準になっているためで、経済成長や年金制度への悪影響が指摘されている。脱労働力化はベビーブーム世代の引退や就職難、女性の「主婦化」などさまざまな要素が原因で、即効性のある対応策は見当たらない。しかも脱労働力化には景気判断を難しくする副作用もあるという厄介な問題もある。失業率は4月に6.3%まで減少しているが、米連邦準備制度理事会(FRB)は雇用環境の実態をみすえながら、慎重に利上げ時期を探ることになりそうだ。

 働き手不足の傾向

 「私にとって最大の懸念の一つは4月に約80万人が労働市場から去ったこと。非常に大きな数字だ」。FRBのジャネット・イエレン議長(67)は5月7日の議会証言で、脱労働力化に警鐘を鳴らした。

 仕事に就く意思のある人の数を示す労働力人口は、米国では第二次大戦直後の約6000万人から一貫して増加し、2008年には約1億5400万人に到達したが、その後はほぼ横ばい傾向だ。一方、人口全体の増加は続いており、労働力人口が相対的に縮小している状況だ。16歳以上人口に占める労働力人口の割合(労働参加率)は00年ごろの67%台がピーク。昨年(2013年)秋からは1978年ごろの水準である63%前後で推移している。

 こうした働き手不足の傾向が続けば経済成長の足かせとなることはもちろん、年金制度維持が難しくなるという指摘もある。米国勢調査局によると、65歳以上の高齢者人口は2010年では約4000万人だが、40年には約8000万人まで倍増する見通し。年金受給者1人当たりの労働者の数は1970年の3.7人から、2030年には2.2人まで減るとみられている。グレン・ハバート元大統領経済諮問委員会(CEA)委員長(55)は14日、ワシントン市内でのシンポジムで、労働参加率低下は「非常に重要な問題だ」と指摘した。

 実態反映しない失業率

 脱労働力化の要因の一つは大戦後生まれのベビーブーム世代が退職時期に入っていることだ。景気低迷による就職難で、若者が職探しを諦め、学生生活や「親のスネかじり」を続ける傾向があるとの声もある。

 さらに女性の労働参加率が00年ごろに減少に転じたことも一因だ。米紙ワシントン・ポストは「多くの女性が家庭に留まって子育てしたり、学校に入り直している」と分析する。これらの要因への即応策は見当たらず、米労働省は労働参加率は22年には61.6%まで減少すると見込んでいる。

 しかも職探しを諦めた労働者は失業者数から差し引かれることから、脱労働力化には失業率を実態よりも押し下げる副作用もある。共和党のロブ・ポートマン上院議員(58)は「労働参加率がオバマ政権発足当初と同じなら、現在の失業率は10.4%」として、労働省が発表した4月の失業率の6.3%は景気を過大評価しているとみている。

 近づく金融引き締め

 ただし、FRBは3月までは利上げ時期の基準の一つとして「失業率6.5%」を挙げていただけに、金融引き締めの時期が近づいていることは確かだ。足下の6.3%という失業率は「長期的にみた失業率の平均値である5.8%から大きく乖離(かいり)しているわけではない」(米紙ウォールストリート・ジャーナル)との指摘もある。

 実際、FRBでは量的緩和政策やゼロ金利状態といった異例の金融政策を正常に戻すための議論も始まっている。4月29、30日の連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨によると、参加者は量的緩和政策でFRBの保有資産が前例にない水準まで膨らんでいる状況を踏まえ、金融政策の正常化は「複数の政策ツール」を組み合わせて行う必要があるとの見方でおおむね一致した。

 具体的には、各金融機関がFRBに保有する超過準備残高に対して支払われる金利の調整や、FRBが保有資産を担保にして金融機関から資金を借り入れるオペレーション、定期預金制度(TDF)の活用などの手法が検討されているという。

 イエレン氏は景気を弱気に判断する「ハト派」と位置づけられ、現段階では金融正常化の開始に慎重な姿勢をとっており、脱労働力化で不透明さが増している雇用状況をにらみながら、景気回復が十分かどうかを判断する日々が続いているようだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

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