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【クリミア併合】途絶えた物流 クリミア「陸の孤島」

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【クリミア併合】途絶えた物流 クリミア「陸の孤島」

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 ≪ウクライナへ国際監視団派遣決定≫

 欧州安保協力機構(OSCE)は3月21日、常設理事会の特別会合をウィーンで開き、ウクライナへの国際監視団の派遣を決定した。これまで反対していたロシアが応じた。ただ、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア自治共和国の取り扱いをめぐっては米露で解釈が分かれている。

 治安情勢などを調査する監視団は文民100人で構成され、必要に応じて最大400人を追加派遣できる。24時間以内に先遣隊が派遣される。期間は6カ月で、東部ドネツク、南部オデッサ、西部リビウなどが監視対象となる。

 監視団の展開先は「ウクライナ全土で東部、南部、西部を含む」としているが、クリミアには言及していない。

 米側は派遣先について「クリミアや他の全地域での活動を委任されたのは明らか」と主張。だが、露側は「クリミアはロシアの一部」として活動先に含まれないとの見解で、今後、曲折も予想される。

 一方、米ホワイトハウスは21日、先進7カ国(G7)による緊急首脳会議がオランダ・ハーグで24日に開かれると発表した。主要国(G8)からロシアを排除した場で親欧米のウクライナ新政権支持を打ち出し、ロシアを孤立させて圧力を強める。

 安倍晋三首相もウクライナへの1000億円規模の経済支援を表明する見通し。ハーグではケリー米国務長官とラブロフ露外相の会談も行われる予定だ。(ベルリン 宮下日出男、 ワシントン 小雲規生/SANKEI EXPRESS

 ≪途絶えた物流 クリミア「陸の孤島」≫

 ロシアに併合されたクリミア半島で、ウクライナとの新たな“国境”となった北部のチョンガルは、幹線道路に戦車がずらりと並び、あちこちに塹壕が掘られるなどまるで戦時下の様相だ。ウクライナからの物流も途絶え、半島は“陸の孤島”と化している。一方、ロシア本国でも、米欧が発動した制裁の影響がじわりと広がり、自国経済の“鎖国化”を図る動きまで出てきた。

 「国境」まるで戦時下

 「何をしているんだ。カメラをよこせ、壊してやる!」

 チョンガルの“国境”検問所近くで長蛇の車列を撮影していると、軍服の男2人が記者に近づいてきて、いきなりこう脅した。「クリミア共和国の自警団」という男たちは、赤ら顔で明らかに酒に酔った様子だ。

 土嚢(どのう)や古タイヤを積み上げただけの検問所には、ロシア国旗が掲げられ、ロシア側に転向したウクライナの特殊部隊「ベルクト」元隊員らが、自動小銃を手に車を1台ずつ調べていた。全乗員のパスポートや持ち物検査まで行うため、“国境”を挟んで両方向に数キロに及ぶ車列ができていた。4時間以上、待たなければ検問を通過できない。

 「新しい国境警備隊の隊長」という男は、銀色のゴーグルにマスクを付けて顔を隠したまま、「まだ完全な国境ではない。クリミアから現金などが持ち出されないよう見張っている。ウクライナ側からは武器や麻薬が流入するのを防いでいる」と語った。

 道路には、ロシア軍のものとみられる戦車30台以上が止まっていた。戦車の上から走行車両に勝利のVサインを送る兵士の姿も。

 住民たちは「生鮮食料品が入ってこなくなった」「この夏にはウクライナからの観光客は来ないだろう」と、うんざりした様子で吐き捨てた。

 露経済は「鎖国」

 一方、ロシアでは、米国がプーチン大統領の「側近中の側近」とみられる財界エリートや関係金融機関を制裁対象にしたことが打撃となっている。

 3月21日には、中堅のロシア銀行など複数行の顧客が、米クレジットカード大手のビザとマスターカードによる決済を利用できなくなり、一般国民にも影響が及んだ。ロシア銀行は国内17位ながらクレムリンと関係が深く、顧客には経済の屋台骨である資源・エネルギー分野の企業も多く、米国の制裁リストに入った。他の数行は、ロシア銀行の子会社だったり、制裁対象の財界人が保有したりしている。

 米国が20日に発動した制裁は、プーチン氏の旧友とされる政財界の要人を対象とし、プーチン体制下の「縁故資本主義」を狙い撃ちにした。

 21日には、富豪のティムチェンコ氏が制裁発動の直前、プーチン氏との資金関係を噂されてきた石油取引会社の持ち株を手放していたことが判明。シルアノフ財務相は21日、「制裁はロシア経済への否定的見方につながる」との懸念を示し、計画されていたユーロ債発行の断念を示唆するなど、動揺が広がっている。

 一方、プーチン大統領は20日、財界人との会合で「ロシア企業は国内に登記し、透明な所有構造を持つべきだ」と述べ、企業が納税などを通じてより国に貢献するよう要請。各種入札での自国企業優遇策を拡大する考えも示した。

 産業貿易省は、国の機関による医療分野の輸入品購買を禁じる政令を準備。政権内には独自のカード決済システムをつくる考えも浮上するなど、米欧とのさらなる関係悪化を見据え、“鎖国”も辞さない構えだ。

 もっとも、経済のグローバル化で相互依存が強まるなか、貿易を閉ざせば、国民生活に大きな打撃が及ぶのは確実。クリミア併合で国民の熱狂的な支持を得たプーチン政権は、経済情勢悪化にどこまで持ちこたえられるのだろうか。(チョンガル 内藤泰朗、 モスクワ 遠藤良介/SANKEI EXPRESS

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