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公民権法成立50年 人種間格差にスポット
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米国初の黒人大統領であるバラク・オバマ大統領(52)が2期目に入り、人種間格差解消への取り組みを加速させている。今月(5月)10日にテキサス州オースティンで開かれた公民権法の成立50年を記念するイベントでは、「社会は分断と貧困に苦しんでいる」と述べ、根強い人種間格差の存在にスポットをあてた。オバマ氏は就任当初は人種を問わない支持を目指して、人種問題への言及は避けてきたとされる。しかし人種間格差を解消できていないことが少数派(マイノリティー)からの支持を失う結果につながっているとの指摘もあり、オバマ氏が方針転換を進める背景には支持基盤を固めたいとの思惑もあるようだ。
人種差別を禁じる公民権法が成立したのは50年前の1964年7月。しかし現在でも米国に人種間の格差が存在していることは間違いない。米国の3月の失業率は白人で5.8%なのに対し、黒人では12.4%と2倍以上。小学校4年生の読解力テストで基準を下回る児童の割合は、白人で54%なのに対し、黒人では86%に達している。
また米国の全人口に占める黒人の割合は約13%なのにもかかわらず、殺人事件の被害者では約半数を占めるという調査もある。これらのデータから浮かび上がるのは、失業などで貧困に苦しむ家庭で育った黒人の若者が適切な教育を受けられないまま、暴力的な事件に巻き込まれているという構図だ。
オバマ氏は(4月)10日の演説で、公民権法などによる改革こそが「私がここに立っている理由だ」と述べ、黒人大統領を選ぶまでになった米国社会の変化を強調した。しかし一方で、「人種は現在でも政治的な議論に影を落とし、不十分な政策も残っている」として、さらなる改革の必要性も訴えた。
オバマ氏は2月にも、人種間での学力格差の解消を目指すプログラムの立ち上げに際してホワイトハウスにマイノリティーの学生たちを招いて演説し、2人の娘を持つ父親としての心情を交えながら、「米国は学力格差の現実を常識として受け入れてしまっている」と現状を批判。昨年(2013年)7月にフロリダ州で黒人少年を射殺した男性に無罪評決が出た際には、「少年は35年前の私だったかもしれない」として、自分自身が人種差別意識にさらされた経験を語り、人種に対する偏見の克服を訴えている。
こうしたオバマ氏の発言に対して、米メディアでは「オバマ氏が人種問題への立場を微妙に変化させている」との分析が出ている。
オバマ氏は2009年1月の就任以降、人種問題からは距離をとってきたとされる。失業率における人種間格差については、経済を好調にすることができれば全ての人種に恩恵が及ぶとする基本的な考え方を示し、一部から人種問題への配慮が足りないとの不評を買ったこともある。米メディアでは、マイノリティーから圧倒的な支持を得て当選したオバマ氏には、就任後も人種問題へのこだわりをみせれば、「マイノリティーだけのための大統領」として軽んじられるという意識があったとの声もある。
しかしオバマ氏就任後も人種間格差は解消せず、黒人からのオバマ氏の手腕への支持には陰りもみえる。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は10年には黒人の84%がオバマ氏の経済政策を支持していたが、14年の調査では72%に留まっていると指摘。それだけにオバマ氏には、再選を気にする必要がない2期目ではマイノリティーに肩入れし過ぎているという印象を与えるリスクをとってでも、人種問題解消を前進させねばならないとの思いが強くなっているようだ。
オバマ氏は2期目に入り、人種間格差解消とあわせて、最低賃金引き上げといった社会的弱者救済の意味合いの強い政策にも力を入れる。こうしたリベラル色の強い政策には共和党からの反発も予想されるが、オバマ氏は議会の承認が不要な大統領令を駆使してでも改革を進める姿勢を示している。
11月の中間選挙では、下院では共和党が優位を維持するとの見通しが大勢。上院でも6年前にオバマ氏初当選のブームに乗って当選した民主党議員が今回は改選を果たすことができず、共和党が議席を増やすとの見方が多い。オバマ氏の姿勢の変化は、中間選挙に向けてマイノリティーからの支持を活気づかせようとする狙いもあるとみられている。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)