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TPP日米協議 両首脳に熱意も道筋は見えず

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TPP日米協議 両首脳に熱意も道筋は見えず

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 4月23~25日のバラク・オバマ米大統領(52)の訪日に合わせて行われた環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の日米協議で、両首脳は大筋合意に向けた熱意をみせたが、閣僚レベルでの大筋合意には到達できなかった。米国内ではTPPに消極的な自動車業界や、日本への妥協を拒む食肉業界などの思惑が入り乱れており、今後の進展の道筋は見えてこない。TPPの「レームダック化」を避けるためには両首脳の強い指導力が必要だ。

 両国内からの強い圧力

 オバマ氏と安倍晋三首相(59)は(4月)23日夜の銀座のすし店での非公式会談で、日米協議を早期にまとめる必要があることで一致。それぞれがマイケル・フロマン米通商代表部(USTR)代表(51)と甘利明(あまり・あきら)TPP担当相(64)に指示を出し、緊急の追加協議が行われた。

 米国経済の後押しを狙うオバマ氏にとって、TPPで米国企業が日本をはじめとするアジア市場に参入しやすくすることの重要性は高い。一方、「TPPの年内妥結」を目標に掲げ、国賓待遇でオバマ氏を迎えた安倍首相にとっても、今回の日米協議は大きな節目だった。両首脳は大筋合意に向けた熱意を共有していたといえる。

 しかし実際の閣僚級協議では日米の溝は埋まらなかった。フロマン氏も甘利氏も国内からの圧力にさらされており、安易に相手に歩み寄れば、議会での批准が不可能になるリスクがあるからだ。

 米自動車業界ではTPPへの慎重姿勢が際立つ。米国は日本からの輸入車に乗用車で5%、トラックで25%の関税をかけており、TPPで関税引き下げや撤廃が決まれば、業績や雇用への影響は避けられない。米自動車大手でつくる自動車政策評議会(AAPC)は「日本が為替操作を行って、米国への輸出を有利に進めている」といった論拠に乏しい議論まで持ち出して日本を批判し、TPPに慎重な対応をとるよう議会に圧力をかけている。

 与党民主党も後ろ向き

 またオバマ政権下での与党で、企業労組から支持を受ける民主党もTPPには後ろ向きだ。民主党のハリー・リード上院院内総務(74)は1月、通商交渉で大統領に強い権限を与える「貿易促進権限(TPA)」法案が提案された際、審議の可能性を早々に否定して棚上げしてしまった。下院でも自動車産業が集積する州選出の民主党議員らを中心にTPPへの慎重論が渦巻く。

 さらにTPPが日本市場への輸出拡大につながるはずの食肉業界でも日本への譲歩に否定的な声が強い。全米豚肉生産者協議会は関税維持を狙う日本に対して、「妥協できるとすれば、関税撤廃までの期間の長さだけだ」と牽制(けんせい)。牛肉分野では、日本が豪州との経済連携協定(EPA)交渉で関税の引き下げ水準を19.5%とすることで合意したことが米側を妥協に向かわせるとの観測もあったが、米側は「豪州との合意水準よりも大幅に低い関税を求める」(米商工会議所幹部)との立場をとった。

 このためフロマン氏が自動車業界や食肉業界を納得させるには、日本から大幅な譲歩を引き出すことが必要だった。しかし甘利氏の側も聖域なき関税撤廃に反対する自民党内の農水族からの視線にさらされている。TPP成立に必要な国会での批准まで見据えれば、安易に米側に譲歩することはできないのが現実だった。

 回避された「合意」の表現

 半面、追加協議後に発表された日米首脳会談の共同声明では「合意」の表現は避けられたものの、「重要課題について前進する道筋を特定した」との文言が盛り込まれた。フロマン氏は今月(5月)1日の上院財政委員会での証言で「TPPで重要な進展があった」と強調し、日米協議で日本側から妥協を引き出したとの見方をにじませた。

 しかし米側は11月の中間選挙が近づけば近づくほど、妥協は難しくなる。中間選挙で苦戦が予想されている民主党にとって日本への譲歩は、支持母体の怒りを買いかねないためだ。日本側には「このままでは日米協議が停滞する」との不安もある。

 オバマ氏は4月24日の首脳会談後の共同記者会見で「自国の市場を開放することなしに、他国の市場に参入できると期待してはならない」と話した。TPPの日米協議の成否は、オバマ氏と安倍首相の双方がこの言葉を自らの議会に納得させられるかどうかにかかっていそうだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

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