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パキスタン和平交渉 早くも頓挫の危機
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パキスタンでテロを繰り返しているイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」と政府の間で始まった和平交渉が始まったばかりで早くも頓挫の危機にひんしている。タリバン運動がテロ攻撃の矛を収めず、政府側もタリバン運動の根城に戦闘機などで激しく攻撃を加えているからだ。昨年(2013年)発足したシャリフ政権が掲げた対話による和平の実現は、遠のいた形だ。
「われわれは、重大な政策転換を行った。今後はテロの一つ一つについて、アフガニスタン国境沿いにある武装勢力の根城への攻撃で対抗する」
パキスタンのチョードリー・ニサール・アリ・カーン内相(59)は2月26日、下院でこう宣言した。この日、政府はテロ対策を盛り込んだ国家安全保障政策を下院に提出した。
パキスタン政府とタリバン運動の和平交渉が始まったのは今月(2月)6日。しかし、タリバン運動はその後も各地でテロを行い、とりわけ(2月)16日にアフガン国境に近い部族地域で拉致した兵士23人を政府の攻撃に対する報復として、処刑したことが政府・軍を激怒させた。
翌(2月)17日、政府は和平交渉を中止し、(2月)20日から25日までの6日間で4回にわたり、部族地域のワジリスタン地区などを戦闘機や武装ヘリコプターで空爆し100人以上を殺害した。(2月)24日には、懸賞金がかけられていたタリバン運動の幹部を含む4人が何者かに射殺された。
シャリフ政権はタリバン運動への対話の窓口はまだ開いているとの立場を繰り返し表明している。しかし、アジズ首相顧問は「国家の秩序を確立し、平和を取り戻すのが最終的な目標だ」と述べ、対話路線を放棄したわけではないと強調しつつ、今後の対応として限定的な空爆か、全面的な軍事作戦かの選択肢を関係者と協議したと明らかにしタリバン運動を牽制(けんせい)した。
今後、軍がどういった行動に出るかは予断を許さないが、「和平交渉が再開した場合に備え、軍は(交渉を有利に進めるための)強硬策をいつでもとれるという立場を示す狙いがある」(パキスタンの安全保障専門家)との見方もある。
一方、ロイター通信によれば、パキスタン政府高官は一連の攻撃について、アフガンのイスラム原理主義勢力タリバンの一派で強硬派のハッカニ・ネットワークが部族地域に逃げ込むのを阻止するため、駐留米軍と協力することを見据えたものだと明らかにした。
ナワズ・シャリフ首相(64)は昨年(2013年)6月の首相就任前から、タリバン運動との対話を掲げると同時に、米無人機による部族地域などへの空爆を強く非難してきた。しかし、政権発足から半年余りで、空爆によりテロに対抗するようになった。もはや、対話姿勢だけでは、事態を打開できないという結論にようやく行き着いたようだ。
和平交渉に応じつつ、テロ攻撃を仕掛けるタリバン運動の思惑について、パキスタンの政治評論家アキール・ユスフザイ氏は、「交渉を有利に運ぶため、政府側に圧力をかけている」とし、「昨年、アフガンにおいて、米・アフガン両政府とイスラム原理主義勢力タリバンとの交渉開始発表後にタリバンが取った(硬軟両様の)戦略の模倣だ」と説明した。
タリバン運動は、パキスタンの民主憲法にシャリーア(イスラム法)を適用することを求めており、交渉でこの点での相違は最後まで平行線をたどるとみられる。このため、協議は弱体化したタリバン運動に組織再編の時間的猶予を与えるだけだとの批判が根強い。
ユスフザイ氏は「タリバン運動は、米軍がアフガンから撤退するまでの間、組織力を温存する時間稼ぎに交渉を利用するようタリバンや国際テロ組織アルカーイダから助言を受けている」と指摘している。(ニューデリー 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS)