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ポリオ予防接種 パキスタンで続く妨害

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ポリオ予防接種 パキスタンで続く妨害

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 【国際情勢分析】

 ポリオ患者の発生が最も深刻なパキスタンで、予防接種作業員へのテロ行為が続いている。世界で残されたポリオ常在国は、パキスタンと隣国アフガニスタン、アフリカのナイジェリアの3カ国だけで、地球上からのウイルス根絶への期待がかかるが、武装勢力の妨害が大きな障害になっている。

 武装勢力がスパイ視

 パキスタンからの報道によると、北西部カイバル・パクトゥンクワ州の州都ペシャワル近郊で1月22日、予防接種チームの警護に当たっていた警察の車両が爆弾による攻撃を受け、警官6人と子供1人が殺害された。

 21日にも南部カラチで予防接種の作業に当たっていた男女3人がバイク2台に分乗した男4人のグループの銃撃を受けて死亡した。事件を受けて女性ヘルスワーカー協会は十分な警護体制が取られるまでの間、作業をボイコットすると発表した。

 パキスタンでは、2011年に国際テロ組織アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディンが偽の予防接種運動で得られた情報がきっかけで殺害されたといわれ、イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動」(TTP)が各地でポリオ予防接種スタッフをスパイとみなし、テロ攻撃を行ってきた。12年半ば以来、21日までにテロの犠牲になった予防接種作業員の数は32人にも上る。

 タリバン運動の広報担当者は1月22日付のパキスタン紙ドーンに「原則として作業員を標的にしてはいない」とし、「ポリオの問題については詳細な検討を続け、信頼できるイスラム教の医療専門家に相談してきた。われわれの疑念の一部は取り除かれた」と述べ、「これ以上予防接種に反対しない」と批判をかわそうとしている。しかし、別のタリバン運動関係者は予防接種がスパイ活動であるとの疑念を払拭し切れていないとの考えを示した。

 最大のウイルス貯蔵地

 世界保健機関(WHO)によれば、パキスタンでは約8万人の子供がポリオの予防接種を受けておらず、このうち2万2000人はタリバン運動の拠点に近いカイバル・パクトゥンクワ州の出身者だという。

 昨年(2013年)1年間の世界のポリオ患者数は385人で、このうちパキスタンの患者は91人を占め、前年より33人増えた。しかも、91人の9割以上はペシャワルで見つかっているウイルスと同じ遺伝的系統を持つウイルスに感染していた。隣接するアフガニスタンでは、患者数が24人減って13人となったが、このうち12人のウイルスもペシャワルのウイルスと同系統だったという。

 過去長い間、患者がゼロだったシリアでは昨年(2013年)、17人の患者が見つかり、パキスタンから入った武装勢力メンバーが持ち込んだウイルスが原因だった可能性が指摘されている。こうしたことから、WHOは(1月)17日、ペシャワルを「ポリオ・ウイルスの最大の貯蔵地」と発表した。

 インドは「根絶」達成

 ポリオ撲滅には、世界各国が資金を投入して懸命に取り組んでいる。日本も11年から米ビル&メリンダ・ゲイツ財団と協力してパキスタンのポリオ根絶のため3カ年で約50億円の支援をしている。パキスタン政府が予防接種事業を成功させれば、財団がパキスタン政府に代わって日本の国際協力機構(JICA)に債務を返済する。

 武装勢力の妨害はこうした世界的なポリオ撲滅の取り組みに真っ向から挑戦する形になっている。

 一方、パキスタンの隣国インドでは、予防接種運動が奏功し、かつて世界の患者の半数を出した汚名を返上、今月(1月)13日に3年間の患者ゼロを達成した。WHOの定める「ポリオ根絶」の条件を満たすことになり、WHOは確認作業が終わればインドを含む「東南アジア地域」に3月にも根絶宣言を出す。

 インド政府は2月14日以降、パキスタンなど常在国を含む7カ国からの入国者に、1年以内に経口生ポリオワクチンを接種したことを示す証明者を携行することを義務づけ、新たなウイルスの侵入防止への対策を進めている。武装勢力の妨害が、カシミール問題などで対立する両国の間に新たな壁を作らせる形にもなっている。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS

 ■ポリオ ウイルスが口の中に入って、腸内で増えることで感染する病気。乳幼児がかかることが多い。手足にまひが現れ、一生残る場合があり、特効薬や確実な治療法はない。日本では1960(昭和35)年に患者が5000人を超える大流行となったが、ワクチン導入で流行は収まり、80年以来、野生のウイルスによる新たな患者は出ていない。

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