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印首相、英連邦会議欠席の複雑な事情

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印首相、英連邦会議欠席の複雑な事情

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スリランカ・コロンボ  【国際情勢分析】

 11月15日にスリランカのコロンボで開幕する英連邦首脳会議(CHOGM)をインドのマンモハン・シン首相(81)が欠席する。スリランカのマヒンダ・ラジャパクサ政権による少数派民族タミル人への人権侵害批判がやまない中、インド国内のタミル人が会議のボイコットを求めたのが主な理由だ。しかし、スリランカでは中国の影響力が強まっており、インドの存在感低下を危ぶむ声も上がっている。こうした状況下で欠席を決めた背景には、政権内幹部の複雑な心境が作用した可能性もある。

 タミル人政党に配慮

 英国と旧英領国計53カ国が加盟する英連邦の首脳会議は15日から17日まで行われる。シン首相は会議直前の(11月)10日、ラジャパクサ大統領(67)に首脳会議を欠席するとの書簡を送った。カナダのスティーブン・ハーパー首相(54)はこれより先に人権懸念を理由に欠席を決めており、インド洋の島嶼(とうしょ)国モーリシャスのナビンチャンドラ・ラムグーラム首相(66)も(11月)12日、同様の理由で不参加を決めた。

 インドでは、タミル人が多く居住する南部タミルナド州の政党が、ラジャパクサ政権とタミル人反政府武装勢力「タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)」との内戦末期の2009年に多数の死者が出たことへの調査が進んでいないなどとしてボイコットを要求していた。

 04年からインドの国民会議派主導の連立与党に参加していたドラビダ進歩同盟(DMK)は今年3月、インド政府がラジャパクサ政権に厳しい態度で臨んでいないとして連立を離脱した。ただ、DMKと連立与党の緩やかな政治的協力関係は継続しており、シン政権としては、来年5月までに行われる総選挙を見据え、タミル人政党に配慮せざるをえない状況にあった。

 ただしインド政府は、シン首相の欠席には、いろいろな要因があるとしている。具体的な説明はないが、選挙対策だけが目的ではなさそうだ。

 深入りで悪夢

 インドはそもそもスリランカの内政に深く関わってきた。多数派民族で仏教徒中心のシンハラ人主導の政府軍と、ヒンズー教徒中心の少数派タミル人のLTTEが全面的な戦闘状態に陥ったのは1983年のことだ。紛争の激化に伴い、スリランカの不安定化を恐れたインドは87年に平和維持軍(IPKF)をスリランカに派遣し、仲介に乗り出したものの、成果が得られないまま90年に撤退に追い込まれた。

 当時、インドがスリランカに残した足跡に、87年のスリランカ憲法修正がある。中央政府から地方州政府への権限委譲を憲法に盛り込ませたのだ。

 スリランカでは今年9月、タミル人が人口の9割以上を占める北部州で州設立後初の地方議会選が行われ、かつてLTTEの武力闘争路線を支持したタミル人政党が勝利した。しかし、ラジャパクサ政権はタミル人州政府への権限委譲を渋っており、シン政権内でも首脳会議への欠席を求める意見が出ていたという。

 また、国民会議派総裁だったラジブ・ガンジー元首相(1944~91年)は、スリランカ介入の報復としてLTTEの女性自爆犯に暗殺されている。現在の会議派総裁はラジブ氏の妻のソニア・ガンジー氏(66)、副総裁は息子のラフル・ガンジー氏(43)だ。2人の脳裏には、スリランカ情勢に深入りしたために招いた当時の悪夢が染みついているはずだ。北部州政府は今回、シン首相にスリランカ訪問に併せて北部州入りも要請していたが、こうした積極外交に否定的な意見が出たとしても不思議ではない。

 中国の影響力増大懸念

 一方で、スリランカでは中国が港湾や空港など巨大インフラの整備を支援している。中国はパキスタンやミャンマーも含めインド洋周辺国の港湾の建設・整備を援助する「真珠の首飾り」戦略を進めており、インドは将来の中国の艦船派遣につながるのではないかとの安全保障上の懸念を強めている。

 シン首相の欠席決断前、首相がスリランカに行かなければ「中国人にインドの裏庭を明け渡すことになる」(インディアン・エクスプレス紙)といった指摘もあり、シン首相は難しい判断を迫られていた。

 首相の欠席発表後、インド外務省当局者は「中国の動向を目の当たりにして、外務省としてはシン首相に参加してほしかったが、国民会議派内で今回は見送るべきだとの決定がされた」と振り返り、ガンジー家の意向が働いたことを強く示唆した。(ニューデリー支局 岩田智雄(いわた・ともお)/SANKEI EXPRESS

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