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ネパール極西部の農村 男手がない厳しい生活

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ネパール極西部の農村 男手がない厳しい生活

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 世界最高峰のエベレストを有するヒマラヤ登山の玄関口として、日本人にとってもおなじみの国、ネパール。今年5月、冒険家でプロスキーヤーの三浦雄一郎氏が80歳の世界最高齢で3度目のエベレスト登頂に成功した時、奇しくも私もネパールにいた。ワールド・ビジョン・ジャパン(WVJ)が、チャイルド・スポンサーシップによりネパールで実施している地域開発支援(ADP)のモニタリングのためだ。

 WVJの支援地があるセティ県ドティ郡は、東西に長いネパールの極西部にある。首都カトマンズから飛行機で約2時間、極西部地域の都市、ダンガディに飛び、さらに車で約10時間走る。標高が高く、1000~3000メートルの高低差があり、最後の約3時間は山越えだ。ガードレールもなく、幅の狭い凸凹の崖路を登ってようやくコミュニティーの入口に到着した。

 WVJは2009年より、ドティ郡の7つのコミュニティーを対象に地域開発支援を行っている。コミュニティーは丘陵地帯のため、人々は急な傾斜地に家を建てて暮らしている。家は泥や木でできており、1階では牛などの家畜を飼っているため不衛生だ。電気、水、トイレといった基本的なインフラさえ整っていない。

 貧しさのため、働き盛りの男性のほとんどがインドやネパール国内の都市部に出稼ぎに出てしまい、コミュニティーに残された女性や子供たちが農作業などの重労働を担っているが、生産性は低く、子供たちの多くが栄養不良だ。

 ネパールそのものが後発開発途上国だが、都市部と農村部の地域間格差は広がっている。1年間の消費が1万9261ネパールルピー(約1万9100円)に満たない貧困者の割合は、ドティ郡のある極西部は45.61%と、ネパール全体の平均を約20%上回る。極西部で暮らす2人に1人が、満足な生活を送れていないことを意味する。格差は所得面だけでなく、教育や社会サービスへのアクセスの制限、就業機会の制限、交通インフラの不備などでも起きている。

 ≪「貧しいから恥ずかしい」を変える歩み≫

 コミュニティーにある家の軒先で女性たちとおしゃべりをしていた時、ある女性が気恥ずかしそうに言った言葉が忘れられない。「ここは、あなたの国より貧しいから恥ずかしい」。当たり前かも知れないが、彼女が自分たちを「貧しい」、私を「豊か」と認識していることが、心に刺さった。彼女はこれまで、どんな人生を送ってきたのか。何を感じ、考え、毎日の生活を送っているのか。子供たちはどんな人生を歩んで行くのか。想像することしかできない私に、何ができるのだろうか-。

 悶々(もんもん)とした思いを抱えながら、5、6人の母親グループに話を聴いた。WVは、地域開発支援の一環として行政機関と連携し、コミュニティーの女性たちを対象に子供の健康についての研修などを実施している。彼女たちは、これまでどんな活動をしてきたか、これから何をしていきたいか、話は止まらなかった。私は「どの国でも、女性たちはおしゃべり好きなんだな」とのんきに考えていたが、現地スタッフが教えてくれた。「自分たちが初めてここに来た時、彼女たちは質問に何も答えられなかった。何回もミーティングや研修をしているうちに、少しずつ話せるようになったんだ」

 この言葉を聴いた時、私たちがなすべきことが分かったような気がした。コミュニティーの人々や子供たちが、自分の持つ可能性に気付き、発揮できるような機会を提供すること。コミュニティーの課題に中心となって取り組んでいけるように側で支え、一緒に歩いて行くこと。そしていつか彼らが一人で歩けるようになったら、そっと側を離れることではないか、と。

 地域開発支援は2026年まで17年の長期間にわたって行われる。この期間に成長する一人でも多くの子供たちが、支援を通じて少しでも生活環境が改善され、多くの可能性を伸ばし、一つでも多くの人生の選択肢を持つことができれば、小さな変化の積み重ねがきっと未来につながっていく。彼らには、その力があるのだから。

 コミュニティーの人々に教えてもらったこの確かなことを大切にしながら、私は自分の置かれた場所で、自分なりに精いっぱい、良い支援を続ける努力を続けていこう。そう思いながら、初めてのネパールを後にした。(文:ワールド・ビジョン・ジャパン 蘇畑光子/撮影:ワールド・ビジョン・ジャパン/SANKEI EXPRESS

 ■そばた・みつこ 恵泉女学園大国際社会文化学科卒業後、2006年7月からワールド・ビジョン・ジャパン勤務。国内での新規支援者の募集と広報を担当した後、13年4月から南アジア諸国(ネパール、インドネシア、スリランカ、フィリピン)の支援事業の監理を担当。

 ■ワールド・ビジョン・ジャパン キリスト教精神に基づいて開発援助、緊急人道支援、アドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)を行う国際NGO。子供たちとその家族、そして彼らが暮らす地域社会とともに、貧困と不公正を克服する活動を行っている。www.worldvision.jp/inochinoki/

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