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米・パキスタン 関係再生できるか

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米・パキスタン 関係再生できるか

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 【国際情勢分析】

 米国とパキスタンの関係は、2001年9月の米中枢同時テロをきっかけとする「テロとの戦い」で緊密化した。だが、「テロとの戦い」の延長線上で、パキスタンが米国の支援を受けながら、裏ではアフガニスタンでテロを展開するイスラム原理主義勢力タリバンを支援するなど、両国関係には疑心と不信が生じた。11年5月に米軍が国際テロ組織アルカーイダの元指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者を潜伏先のイスラマバード近郊で急襲、殺害したことで、関係はどん底に落ち込んだ。それだけに、6月にパキスタン首相に選出された後、初めてとなるナワズ・シャリフ首相(63)の訪米(10月20~23日)は、過去を乗り越え、いかに今後の両国関係を構築できるかを占う重要な旅となった。

 治安安定なしに成長なし

 米パ首脳会談では、パキスタンの経済支援について多くの議論が交わされたようだ。しかし、10月23日付英紙フィナンシャル・タイムズ社説は「パキスタンへの経済支援は、効果が薄く、長続きしない」として否定的だ。

 むしろ、「パキスタン製繊維に対する米国の報復関税を撤廃すればいい」として、シャリフ氏が強調する貿易面での支援を主張する。会談では米国がそこまで譲歩することはなかったが、フィナンシャル・タイムズは「貿易障壁を下げることはテロ行為の阻止と無関係にみえるがリンクしている。協力を得るためにパキスタンを繰り返し買収する時代は終わった。オバマ氏にとって、シャリフ氏の訪米はより良い政策を目指すチャンスとなる」と指摘する。

 10月25日付ニューヨーク・タイムズ紙は「シャリフ氏の成功は両国の利益にかなう」との主張を展開する。ニューヨーク・タイムズは、シャリフ氏が前任者よりも政治的に強く、オバマ氏との首脳会談に軍トップのアシュファク・キヤニ陸軍参謀長(61)を同席させなかったとして、「シャリフ氏が、長期にわたって軍が支配してきた政府の文民統治を強めつつあることを示すものだ」と評価する。シャリフ氏が治安の安定なしに経済成長はないとの認識を示したことにも注目する。

 無人機攻撃は了解の下

 パキスタンが米国との関係を改善基調に乗せるために何をすべきかは、米国に批判的なパキスタンメディアの目にも明らかだ。10月25日付のドーン紙社説は「オバマ氏は経済と開発の両面でパキスタンに関与しようとしているが、テロリズムと武装勢力との戦いの問題は、これまでのように緊急性が高く、現実の課題である。だからこそシャリフ氏の本当の仕事は国内の治安問題の取り組みだ」と指摘する。

 一方、今回のシャリフ氏の訪米前に、米英によるパキスタンやアフガニスタン、イエメンでの無人機攻撃に関する調査報告が人権団体などから公表された。ところが、米パ首脳会談の直後には米紙ワシントン・ポストが、パキスタン側が米側から無人機攻撃に関する報告を定期的に受けていたことを裏付ける機密文書をスクープした。無人機攻撃がパキスタン側の了解の下で実施されていることは、これまでも伝えられてきた。ただ、今回のスクープはそのタイミングといい、パキスタン側の無人機攻撃への関与を具体的に示した内容だっただけに、無人攻撃の停止を声高に求めるパキスタンを偽善的とみせる効果があった。

 広がる建設的な意見

 パキスタン側は反発しそうだが、パキスタンのエクスプレス・トリビューン紙10月25日付社説は、「無人機の問題はこだわる価値があるのだろうか」と冷静だ。「私たちに無人機攻撃を停止させる力はないのだから、もっと確実に得られるものを目指すほうが理にかなっている」として、無人機攻撃の対象となっている部族地域での発展・開発で、米国に協力してもらうよう尽力することを提案する。また、「パキスタンの政権担当者はパキスタンがどうやって米国から利益を引き出せるかを考えるべきだ」として、現実を正確にとらえた上で、南アジアとその将来にとって不可欠な米国との関係強化に努めるべきだとしている。

 こうした建設的な意見は国内で静かに広がりつつあるようだ。米パ関係の再生には悪い話ではない。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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