SankeiBiz for mobile

在外公館大規模閉鎖 テロ対策に疑問符

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSの国際

在外公館大規模閉鎖 テロ対策に疑問符

更新

 【アメリカを読む】

 米国を標的とするテロ活動の可能性が高まったとしてオバマ政権が実施した中東や北アフリカでの在外公館の大規模閉鎖が野党共和党やメディアからの批判の的となった。バラク・オバマ大統領(52)はこれまでテロとの戦いを優位に進めていると語ってきた。しかし、今回の事態でテロの脅威が根強く残っていることが表面化し、オバマ政権のテロ対策に疑問が投げかけられた形だ。また、20カ所近くの在外公館を長期間にわたって閉鎖したことには「過剰反応」との批判も噴出した。在外公館の閉鎖はすでに縮小されているが、オバマ政権にとっては実りの少ない結果となった。

 脅威の存在が表面化

 オバマ政権は8月2日、イエメンを拠点とするアルカーイダ系武装組織「アラビア半島のアルカーイダ(AQAP)」によるテロ活動の可能性が高まったとして、全世界を対象にした警戒情報を発令した。4日には中東や北アフリカで大使館や領事館を閉鎖。さらに6日にはイエメン滞在の米国人に退避勧告を出し、米空軍は6日早朝、大使館員らをイエメンの首都サヌアから一斉に退避させた。

 オバマ大統領はこれまで、テロとの戦いでの成果を強調してきた。昨年の大統領選では、アルカーイダの最高指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者の殺害を1期目の成果として何度も語り、テロ組織に打撃を与えたと主張。今年5月の演説では、アフガニスタンやパキスタンのアルカーイダについて「敗退の道をたどっている」とし、「現在の脅威は米中枢同時テロ以前の水準に近い」と話していた。

 しかし、今回の在外公館閉鎖などの対応は「テロの脅威」の存在を強く印象づけた。下院情報委員会のピーター・キング議員(69)は6日のテレビ番組で「大統領はアルカーイダを打ち負かしつつあるかのように振る舞ってきた」と述べ、オバマ政権の認識の甘さを指摘。ルイ・ゴメルト下院議員(59)は「オバマ大統領はきれい事の演説をして、上手く誠意を示せば、みんなが米国を愛してくれると考えていたが、そうではなかった」と痛烈な批判を展開した。

 「過剰反応」との声も

 また、オバマ政権の対応には「過剰反応」との声も挙がった。19カ所もの在外公館が1週間にわたって閉鎖されたのは異例の事態で、米国がテロリストの脅迫に屈したとも受け取られかねないからだ。

 米紙ニューヨーク・タイムズは8月5日付紙面で「米国が機能不全に陥り、外交機能を長期間にわたって停止させることはできない」として、オバマ政権に在外公館の警備強化と早期の業務再開を求めた。ニューヨーク・タイムズは8月6日付紙面の記事では、テロリストたちがインターネット上で「米国はアルカーイダを恐れている」「退避命令などの対応は米国に数十億ドル単位の資金をかけさせた」などと意見を交わしている様子を取り上げた。また、FOXテレビやCNNテレビもテロ対策の専門家らを番組に起用。「手当たり次第にアフリカの大使館を閉鎖することは意味をなさない」「在外公館の閉鎖は『アルカーイダは強大で、世界中のどこででもテロ活動を行うことができる』と宣言しているようなものだ」などの声を紹介した。

 批判を打ち消す大統領

 一方のオバマ政権側は、オバマ大統領がこれまでもイエメンやイラク、北アフリカにテロ組織の活動が広がっていることにも触れてきたと弁明。ジェイ・カーニー大統領報道官(48)は6日、「大統領が話してきたことは、まさに今、われわれが目にしていることだ」と批判を打ち消した。また、オバマ大統領自身も6日のNBCテレビのトーク番組に出演し、「(テロ攻撃の)危機は重大だ」と話し、過剰反応との指摘を否定。「今も暴力的で過激な活動が存在している」とも述べ、テロ対策の重要性を示した。

 その後、11日にはAQAPに関わる在外公館閉鎖は在イエメン米大使館を除いて解除された。しかし、オバマ政権の一連の対応はテロ対策の信頼性に焦点を当てる結果となったといえる。

 オバマ大統領には、昨年9月にリビア東部ベンガジの米総領事館が襲撃を受け、大使ら4人が死亡した事件が大統領選で攻撃材料にされたという苦い経験がある。米中央情報局(CIA)元職員のマイク・ベーカー氏は、今回の「過剰反応」はテロ対策の観点から引き起こされたというよりも、「もう一度ベンガジと同じような事態で人命が失われた場合の政治的な影響の大きさが考慮された結果だった」と指摘している。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS

ランキング