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日本と香港の若者…似て非なる政治への「あきらめ」

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日本と香港の若者…似て非なる政治への「あきらめ」

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交流セミナーに参加した同志社大学と香港教育大学の学生ら=2014年2月7日(渡辺武達さん提供)  【メディアと社会】渡辺武達

 2月4日から10日までの1週間、同志社大学の国際研修企画として行われた、同志社と香港教育大学の学生交流セミナーに参加してきた。学生同士の国際コミュニケーションの促進が目的で、今回は「国際理解促進におけるとメディアと若者の役割」を主要なテーマとした。

 筆者は引率責任者を務め、「若者のメディア接触と中国理解」と題した基調講演を行った。セミナーの合間には、中国深●(土へんに川、シンセン)とマカオを10年ぶりに訪れる機会を得た。

 香港教育大学のカホ・モク教養社会学部長(政治学)やアレックス・チャン講師(メディア学)と入念な事前うち合わせをしてセミナーに臨んだのだが、活発な議論に驚かされた。

 香港側の学生が「日本政府の歴史認識に対する批判が香港メディアに出ることがあるが、それはすでに過去のことであると考えている」と発言すると、出席した香港側の31人の学生全員がそれに賛同。

 しかも、2人の中国大陸からの留学生も同意し、「中国メディアの伝える政府の公式見解は市民の意見とは違うことが多い」との発言まで飛び出した。

 この率直さには驚いたが、時間をかけて議論をしていくうちにその背景が分かってきた。香港が中国に返還される前の英国統治時代は、総督を自ら選ぶことができず、返還後も大陸の中国政府に抵抗することが難しく、政治に対してある種の「あきらめ」を感じているのではないだろうか。

 その結果、祖父母と親の世代は戦争の惨禍を忘れていないが、若い世代は経済的利益の追求の方が大切だと考えるようになり、そうした考えからは、今の日本の生活様式は理想的に見えるのかもしれない。

 実際、宿泊したホテルの食堂では日本のポピュラー音楽がよく流れていたし、香港から深●(土へんに川、シンセン)に向かう列車内では、日本製の紙おむつや粉ミルクを買い込み持ち帰る人が目立った。

 香港のテレビ局では、「アジアテレビ(ATV)」が圧倒的な視聴率を誇り、その番組には派手な活劇や音楽中心の娯楽系が多い。それに対抗すべくいくつかのテレビ局が立ち上げられたが、最初は社会派番組を流していても、しだいに娯楽主体になってしまうと、チャン氏が報告した。

 日本のメディア学者たちは、香港のテレビではよく「フェニックステレビ」を取り上げ、革新的で、北京政府から独立していると紹介する。しかし、実際にはそれは有料の衛星放送で、言語も香港住民が使う広東語(南方方言)ではなく、北京を中心に使われる標準語のマンダリンだ。

 このため、現地では主にマレーシアやシンガポールに在住する「華人」のノスタルジアをかき立てる役割を果たすと同時に、北京政府への露骨な迎合のないところが、大陸の知識層に受けているという評価であった。

 また私たち一行は、香港にある中国国営「中国中央テレビ」(CCTV)のアジア太平洋総局を訪問し、局員と国際放送のあり方について議論する機会があった。相手から「日本政府の反中国的態度を国民はどう見ているか」と問われた、同志社のある学生は「青島からホームステイの学生を受け入れたことがあるが、日本の安全と清潔さ、人びとの親切さに感動していた。

 自分の家族も中国の若者と信頼しあえて喜んでいた」と、回答。「日中政府のメンツをかけた対立は迷惑でもある」と、するどく切り返していた。

 また会食をしながらの懇談では、ある学生が「なぜ香港のペットボトルのフタは日本のものよりも大きいのか」と聞くと、「中国人は大きいものが好きだし、なんでも日本に負けたくない」との答えがあり、大笑いになったこともあった。こうした国際交流の場で、堂々と渡り合う日本の若者に筆者は、希望を感じた。

 一方で、私たちの香港滞在中の9日に行われた東京都知事選の投開票の分析結果によると、高齢者の多くが福祉政策の充実を求め、若年層は日本の対外的強硬姿勢を支持する傾向が強かったという。

 一方で、大雪の影響もあるが、棄権者がことのほか多かった。若者の多くが政治をネット上の「楽しみ」と位置づけながら、実際の政治に参加には忌避傾向が強まっているように感じる。

 香港と日本の若者の政治に対する「あきらめ」は似ているようで、本質的には大きく異なる。(同志社大学社会学部教授 渡辺武達(わたなべ・たけさと)/SANKEI EXPRESS (動画))

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