SankeiBiz for mobile

客席との距離がなくなる「魔法の時間」ある バレエダンサー 加治屋百合子さんインタビュー

ニュースカテゴリ:EX CONTENTSのエンタメ

客席との距離がなくなる「魔法の時間」ある バレエダンサー 加治屋百合子さんインタビュー

更新

世界5大バレエ団の一つアメリカン・バレエ・シアターでソリストを務める加治屋百合子(かじや・ゆりこ)さん。3年ぶりの引っ越し公演で再度の全幕主演を果たす(伴龍二撮影)  世界から今をときめくスターが集結するアメリカン・バレエ・シアター(ABT)で、日本人ただ一人のソリストを務める。2011年の来日公演では「ドン・キホーテ」のヒロイン、キトリ役で名門の全幕主演を日本の舞台で初披露した。しなやかな線を描く端正でダイナミックな演技は、全編がお祭りのような舞台でひときわの輝きを放ち、恋に生きる女性の微妙な胸のうちも情趣たっぷりに映し出して、華やかなハッピーエンドを築き上げた。

 「特定のストーリーやイメージを伝えようと意識するのではなく、私自身が役の中にどこまでも入り込み、私の体を通して出てきたものをお客さまが受け止め、それぞれの胸の中で何かがわき起こり、心の中に刻まれるものがあればと願っています。何かを見たい、感じたいと身を乗り出され、踊っている私との距離が限りなく近づいていると感じられる瞬間があります。それは魔法のような幸せな時間です」

 演劇的、ユーモアある舞台

 そう語る加治屋は、2月20日から3月1日まで東京都内で行われる今回の来日公演で、3大バレエの一つ「くるみ割り人形」のヒロイン、クララを演じる。少女のクララは、壊れたはずのくるみ割り人形とともに、クリスマスの夜を彩るファンタジーの世界へと誘われる。いつしか加治屋が演じる大人のクララへと姿を変え、くるみ割り人形も、すてきな王子となって登場する。

 2人は雪の精が舞い、金平糖の精がほほ笑むお菓子の国で、とりどりの衣装に身を包んださまざまな踊りを目の当たりにし、色彩感に富んだ世界に身を委ねる。ロシア出身の気鋭、アレクセイ・ラトマンスキーが振り付けをしたABTの舞台では、クララと王子が夢のようなダンスを繰り広げ、壮麗なクライマックスが訪れる。

 「高度な技巧をふんだんに盛り込み、丹念に磨き上げられたダンスを追究しながら、演劇的な感覚とユーモアのセンスにあふれた舞台となっています。おもちゃの兵隊と戦うネズミの軍団には誰もが心をくすぐられますし、有名な花のワルツにも思わぬものが登場して楽しませてくれます」

 厳しい要求は期待の証し

 大人になったクララには、少女のクララの視線や思いが込められ、めくるめくような世界で特別な存在感を示す。そこには圧倒的なテクニックと繊細で濃密な表現力が求められるが、加治屋は高い目標に向かって突き進むことに大きな喜びを感じるという。

 「厳しい要求が突きつけられるのは可能性があると期待されるからです。昨日よりも今日、今日よりも明日と進んでいくことに大きな喜びがあり、バレエを続けてくることができました」

 習い事の一つとして8歳でバレエを始め、父親の仕事で中国に渡ると、通常の勉強もできるからと上海舞踊学校に学んだ。家族は1年の在任を終えると帰国したが、たった1人で中国に残ってバレエに打ち込んだ。

 「途中で投げ出したくないという一心でした。中国全土から選ばれた精鋭が集まり、ついていくのがやっとでしたが、一つ、また一つとできることが増えるに連れ、いつの間にかバレエが心から好きになりました」

 経験、記憶とともに深い思いを

 中国代表として臨んだローザンヌのコンクールでは必ず勝つことが求められたが、バレエが好き、前に進みたいという強い思いで難関を突破する。まだ英語も十分に話せなかった留学先のカナダでABTへのあこがれを芽生えさせ、電子辞書を片手にバレエへの思いを膨らませ、夢を現実へと変えた。ニューヨークに着いたばかりの頃には9・11の衝撃が街を襲った。

 「17歳の私には大きすぎる街でしたが、幼くして日本を離れ、中国、カナダを経た先にようやく訪れた安住の地でした。私はこの街でバレエに向かう日々を重ね、少女から大人になっていました。バレエは踊り手の人生を映すものだと思います。今回は一途な愛に生き、死んでもなお恋人の幸せを願うジゼルという女性も演じさせていただきますが、私の踊りに刻まれているこれまでの経験や記憶とともに、深い思いをみなさんと共有できればと思います」(文:谷口康雄/撮影:伴龍二/SANKEI EXPRESS (動画))

 ■かじや・ゆりこ 1984年、名古屋市生まれ。8歳からバレエを始め、10歳で上海舞踊学校に入学。2000年のローザンヌ国際バレエコンクールで入賞し、カナダ国立バレエ学校へ留学した。01年にアメリカン・バレエ・シアター(ABT)の下部組織のスタジオカンパニーに入り、わずか1年足らずの02年にはABTの正団員として迎えられる。07年から最高位ダンサーに次ぐソリストへと昇格し、11年のABT日本公演では「ドン・キホーテ」のキトリ役で全編の主演を務めて大きな話題を呼んだ。

 【ガイド】

 ■アメリカン・バレエ・シアター日本公演 「くるみ割り人形」2月22日(土)13時~。「オール・スター・ガラ」25日(火)18時30分~。オーチャードホール(東京・渋谷)。ジャパン・アーツぴあ (電)03・5774・3040

ランキング