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常習者急増 米国にはびこるヘロイン  

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常習者急増 米国にはびこるヘロイン  

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 【国際情勢分析】

 アカデミー主演男優賞受賞の米俳優、フィリップ・シーモア・ホフマンさん(46)が今月(2月)2日、ニューヨーク市内の自宅で死亡しているのが見つかった。自宅の高級アパートの浴室で知人に発見されたホフマンさんの左腕には注射針が刺さったままで、そばにはヘロインとみられる物質が入った封筒が発見されたという。米国では昨年(1月)7月にも、米人気ドラマ「glee(グリー)」に出演していたカナダ人俳優、コリー・モンティスさん(当時31)がアルコールとヘロインの過剰摂取により急死している。2008年にはアカデミー助演男優賞受賞俳優のヒース・レジャーさん(当時28)が処方箋薬の過剰摂取で死亡したことも、映画ファンの記憶に鮮明に残っているはずだ。惨事が起こる度に薬物の危険性が大きく伝えられるにもかかわらず、薬物の蔓延(まんえん)は止まらない。

 「対麻薬戦争は失敗」

 2月4日付米紙シアトル・タイムズの論評は、米国の薬物との戦いについて「毎年、何十億ドルもがWar on Drugs(麻薬戦争)で無駄に費やされ、薬物はかつてないほどに、より安価になり、入手しやすくなっている。その戦いは、薬物の供給を圧迫することで、公に薬物の使用と直面することを恐れる中毒者を犯罪者に頼らせることにつながり、運び屋を豊かにしている」と政府の対応を酷評した。

 昨年(2013年)8月に米国で行われた世論調査では、回答者の82%が米国の「対麻薬戦争は失敗」との認識を示している。2月4日の米誌タイム(ウェブ版)が掲載した米国薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)のデータによると、年間のヘロイン利用者は07年に37万3000人だったが、12年には66万9000人とほぼ倍増した。また、ヘロインの過剰摂取による死亡も急増しており、米麻薬取締局(DEA)の最新のデータによると、06年から10年で45%増の3038人が死亡した。

 大半はメキシコから密輸

 ヘロインの押収量も増加している。2月4日配信のロイター通信が伝えたDEAのデータによると、米国南西部の国境地帯では、08年から12年の間、年間の押収量は555.8キロから2091キロに増えており、密輸活動が活発化していることを裏付けている。米国に密輸されるヘロインの95%は中南米からで、大半がメキシコからだ。

 2月3日付米紙ウォールストリート・ジャーナル(ウェブ版)は、ヘロイン復活の背景を「中南米からの供給増と、中毒者を昔からの薬物に向かわせる処方箋薬の取り締まり強化」と指摘している。米政府は鎮痛剤の乱用を防ぐため、処方箋薬の価格をつり上げるなどの対応を取っている。また、ヘロインの純度が高くなっていることもあり、鼻からの吸引でも効果を得やすくなったことで、これまで注射針の利用が理由でヘロインを避けてきた人が抵抗を感じなくなったとの指摘もある。

 地方にも拡大する災禍

 ウォールストリート・ジャーナルはまた、「ヘロインは地域的または人口学的な境界が一切ない」とDEA報道官の発言を紹介している。かつて都市部で深刻だった「ヘロイン災禍」が、今は郊外や地方にも拡大しているのだ。

 米国北東部バーモント州のピーター・シュムリン知事(57)は今年1月に州議会で行った演説で、演説の大半を薬物問題にあて、バーモント州の問題の深刻さをアピールした。シュムリン氏は、薬物問題を犯罪ではなく公衆の健康問題と位置づけ、中毒者の治療体制の強化などへの予算増に理解を求めた。バーモント州の動きが今後も注目を集めそうだ。

 2月7日付米CNN(ウェブ版)の記事によると、かつて中毒で悩んでいたホフマンさんは07年、同じ中毒者の知人にこう語ったという。「もし私たちのどちらかが過剰摂取で死んだら、まさに過剰摂取で死ぬはずだった10人は死なずにすむだろう」(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS (動画))

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