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本当に大切なものは何か 普遍的テーマ ソプラノ、佐藤しのぶさんインタビュー
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オペラ「夕鶴」の記者会見に出席した右から現田茂夫、森英恵、佐藤しのぶ、市川右近、千住博、成瀬一裕=2013年10月10日(江原和雄撮影) ≪團伊玖磨のオペラ「夕鶴」に主演≫
日本を代表するソプラノの一人、佐藤しのぶが、日本の音楽史に大きな足跡を残した作曲家、團伊玖磨(だん・いくま)のオペラ「夕鶴」に主演する。歌舞伎俳優、市川右近の新演出で、今月(1月)から4月にかけて全国で公演が行われる。
「テーマは深く普遍的なものです。『鶴の恩返し』の民話の世界を超えて、どこの国の人であろうと人間にとって本当に大切なものは何か?と問いかける作品です」と佐藤は話す。
「夕鶴」の作曲者、團は当時、文化庁のオペラ研修所の所長を務めていた。研修所で勉強していた佐藤は後に主役「つう」を歌うように師より勧められた。それから随分時間がたった。
「当時、歌いなさい、と言われましたが、勇気がありませんでした。『夕鶴』は本当に素晴らしい名演がありすぎます。私はそういった名演を聴いて育ちましたから」
しかし、昨年は團の十三回忌。また、東日本大震災を経験したことも、今回の「夕鶴」上演の背中を押した。
「東日本大震災で故郷を失った方もたくさんいます。2年半たっても復興していません。そして、世代を超えて歌う日本の歌がなくなってきていることも気がかりでした。『夕鶴』は、すべてを失ってから本当の幸せとは何か、を気付かされるお話です。團先生の深い思いがあって、書かれています」
「夕鶴」は、木下順二の戯曲を台本に1952年に初演された。わなにかかっていた鶴を助けた与ひょう。「女房にしてくれ」とつうが訪ねてくる。夫婦となるが、つうは「織物をしているときは部屋を覗(のぞ)かないでくれ」と頼む。日本人なら誰でも知っている民話だ。
「与ひょうは無欲無心に鶴を助けます。動物や子供とコミュニケーションができる、素晴らしい能力の持ち主なのです。お金という概念を持っていない人です。与ひょうはお金があれば都に行ける、ただつうと一緒に都に行きたい、つうを喜ばせたい、と思っただけなのです。つうも、与ひょうを喜ばせたいために都の話をし、布を織ってあげた。与ひょうとつうのボタンの掛け違いが悲劇になっていきます」
演出の右近、美術は日本画家の千住博、衣装は森英恵と各界を代表する才能が集まった。
「みなさんの持っているそれぞれのエッセンスで、新しい『夕鶴』が作り上げられればと思います。伝統とは革新に革新を続けていくことです。新しい『夕鶴』を作る今回のプロジェクトは、『夕鶴』の伝統を作ることです。とても意義のあることだと思います」(月刊音楽情報誌「モーストリー・クラシック」編集長 江原和雄、写真も/SANKEI EXPRESS)