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不退転の覚悟で一歩先へ踏み出す カサリンチュ
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カサリンチュ、とは「笠利(かさり)の人」という意味だ。鹿児島県奄美大島の笠利町に育った2人は、学生時代の東京での生活を経て島に帰郷後ユニットを結成し、2010年にメジャーデビューした。今でも変わらず奄美大島で生活しながら音楽活動を続けている。
奄美大島在住のミュージシャンというだけでなく、アコースティックギターにボーカル、ヒューマンビートボックス(口でドラムなどの音を出す表現スタイル)というユニットというのも特徴的だ。フォーキーな雰囲気と、口で鳴らされるリズムパターンが生み出す独特なグルーブで、優しい歌からファンキーな曲まで幅広く持ち味を発揮している。
先週、1年3カ月ぶりのアルバムがリリースになった。バラエティー豊富な曲のテーマはカサリンチュならでは。過去には耕運機から虫まで歌詞に昇華されてきたが、今作も「悩める自分自身」から「正月の子作り」まで、独自の視点が描かれる。とりわけ、自分の立っている場所から一歩先へ踏み出していくことを歌った「New World」という曲にとても心を打たれた。
先日番組を担当している放送局ですれ違った際に、ギターボーカルのタツヒロが音源を手渡してくれ、「僕、仕事辞めたんです。音楽一本にしました」と伝えてくれた。
もともとデビュー当時から奄美大島では大きな会社である製糖工場のサラリーマンとして生活していたタツヒロ。しかし今年6月に退社したのだという。生活の安定を捨ててまで、音楽に専念する決意だ。確かにツアーやプロモーションで全国を移動するとなると、スケジュールを確保するために会社の有給休暇を使うのにも限界がある。しかし音楽をやっていてサラリーマンのように安定的に稼げる保証はない。そう考えると、自ら決断し新しい環境で勝負する気持ちが曲からも強く表れていると感じられる。
いよいよ東京へ?と聞くと、「いや、島からは出ません!」と笑った。彼らの持ち味の人懐っこさ、生活の近くから語りかけてくれるような歌詞の世界観は、東京での生活を経験したからこそ、奄美大島で生活し続けることの大切さを身に染みて感じているようだ。
変わらない風景の中、新たな決意で鳴らす音、放たれる歌に耳を傾けてほしい。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)