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構成、メッセージ 驚きの仕掛け People In The Box ニューアルバム
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2003年に福岡県北九州市で結成された3人組ポストロックバンド、People_In_The_Box(提供写真) 2003年に福岡県北九州市で結成された男性3人組は、07年の1stミニアルバムのリリース以来、変拍子やプログレッシブな楽曲の展開まで取り入れて、独自の世界観を描き続けているロックバンドだ。ボーカル波多野裕文のイノセントでクリアな響きを持つ甘い声と、なぞれるようなメロディーラインで聴く者を引き付ける。
前作から1年というタイミングで新作がリリースになった。CDプレーヤー、PCに入れて表示を見た人は驚いたであろう。70分を超えるこの作品、「1曲」と表示されるのだ。驚くことに曲数に換算すると21曲分とその曲間の無音までそのままつながっている。収録時間70分は最近の平均的なアルバムの中ではむしろ長い方だと思う。
波多野のアイデアであるこの「21曲分1トラック」だが、本人は「単純な思い付きだが、曲順、発売方法を作品にとって最もふさわしい形にしようと考えた結果」という。それがもたらすわれわれリスナーの反響も想定していたそうだ。
アルバムすべてが1トラックに収まっていることで、全体が一つの物語のように進んでいき、「アルバムとして一つの作品」という色合いがとても強く印象に残る。なにせ物理的に他の曲にスキップできないのだ。
楽曲やアルバムの構成の特異さだけではなく、アルバムに込められているメッセージも、このアルバムには質感の違いを個人的には感じている。
もともと波多野の書く歌詞は多少難解で、聴き手にさまざまなイメージを想起させる。言葉の持つ温度や楽曲のエネルギーを頼りにリスナーなりの絵を描かせてくれる奥行きを持つ。
そのなかでも今作は、社会のゆがみや人のエゴ、メディアなど、今の時代性などがイメージできる言葉が印象的に響く。震災以降、というテーマも頭に浮かんだ。
「浮かんだアイデアに制限をかけずに吐き出し、完成形ではなく過程を切り取った」と波多野が言う通り、今作は曲の振れ幅、遊び心とともに、感受性の高い波多野がフィルターをかけ過ぎずに紡いだ言葉たちが生き生きと鳴っている。(音楽評論家 藤田琢己/SANKEI EXPRESS)