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【Q&A】諫早開門差し止め 前例なきねじれ 農家と漁業者の板挟み

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【Q&A】諫早開門差し止め 前例なきねじれ 農家と漁業者の板挟み

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 諫早湾(長崎県)の奥をふさいでいる堤防の水門を開かないよう、長崎地裁が国に命じました。3年前に福岡高裁が開門を命じたのと逆で、国は板挟みになっています。

 Q 水門を開けるか開けないかが、なぜ問題になっているのでしょう

 A 諫早湾がある有明海で魚や貝がとれなくなっています。漁業をする人たちは、諫早湾を堤防で仕切って陸地(干拓地)にした国の「諫早湾干拓事業」が大きな原因だと訴えています。福岡高裁はこの意見を認め、水門を開いて自然に近い状態に戻し、海の状態が良くなるか調べるよう命令したのです。

 Q 反対している人がいるのですか

 A 干拓地で農業をしている人たちです。堤防と干拓地の間には淡水の池がありますが、開門すると海水が入って農業用水に使えなくなり、畑も塩害を受けると心配しています。長崎地裁は農家の訴えを認め、開門をやめるよう命じました。

 Q 裁判所が逆の判断をするのは珍しいの

 A 福岡高裁判決は当時の菅直人(かん・なおと)首相が上告を断念し、既に確定しています。確定判決がある場合、同じ問題で裁判所が別の結論を出すことは、普通はありません。ただ今回は高裁の裁判に参加してない農家が当事者で訴えの内容も違うため、地裁は確定判決に縛られずに判断したのです。

 Q どちらの命令が優先するのでしょう

 A 専門家も「前例がなく分からない」と話しています。確定判決は今も有効です。長崎地裁が11月12日に出したのは「仮処分決定」と呼ばれ、国が異議を申し立てれば結論がひっくり返る可能性はありますが、それまでは効力を持ちます。

 Q 国の反応は

 A 事業を担当する林芳正(はやし・よしまさ)農水相は「相反する義務を負い、大変難しい状況だ」と話し、異議を申し立てるかどうか明言していません。

 Q 今後どうなるの

 A 確定判決が決めた開門の期限は12月20日です。それまでに開門されなければ、漁業者側は国に判決違反の制裁金を支払わせる「間接強制」という手続きを取り、圧力をかけると言っています。開門した場合は、農家側が仮処分決定に従わない制裁金を国に支払わせると言っています。

 Q どちらにしても対立は続きそうですね

 A ここまでこじれる前に問題を解決しなかった国の責任もあります。政治判断による解決を求める意見もありますが、両方に納得してもらうのは簡単ではありません。

 ≪国の制裁金支払いは不可避≫

 長崎地裁の仮処分決定は、福岡高裁確定判決に従って開門準備を進めてきた農林水産省にとって「想定外」の司法判断だった。農水省は仮処分への異議申し立てを検討するが、決定内容の分析などに「2~3週間かかる」(幹部)とみられ、来月(12月)20日の期限までの開門は極めて困難な状況となった。

 ある政府関係者は「異議申し立てしなければ、確定判決に背くことを意味する」とし、申し立ては避けられないとの見方を示す。ただ、裁判所が申し立てを受けてから結論を出すまで数カ月かかった例もある。来月(12月)20日の開門期限を過ぎた後もある程度の期間、差し止め仮処分の効力が継続する可能性がある。

 福岡高裁で勝訴した漁業者側は、国に制裁金の支払いを求める「間接強制」に打って出る考え。「仮処分があっても、国が開門を決断せず期限を過ぎれば確実に申し立てる」(馬奈木昭雄(まなき・あきお)弁護団長)としている。

 一方、長崎県の中村法道知事や干拓地営農者らは11月14日、林芳正(はやし・よしまさ)農水相と省内で会談し、地裁決定を踏まえて開門を見送るよう求めた。開門を強行した場合、中止するまで制裁金を科す間接強制を申し立てる構え。

 国は開門を実施しても、見送っても制裁金の支払いを求められる可能性も出てきた。(SANKEI EXPRESS

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