配偶者控除を維持、かすむ「働き方改革」 政府税調の存在意義は
政府税調が配偶者控除の見直しで妻の年収要件を引き上げる案を示したのは、「夫婦控除」など有力とされた改革案では負担増になる世帯が多くなり、反発を招くことを懸念したためだ。だが、女性が就業調整を意識せずに働くことができるという理念はかすみ、改革姿勢が後退したと批判される可能性もある。
結婚していればどの世帯にも適用する夫婦控除は、女性の働き方に中立な仕組みとして当初有力視された。だが、控除の対象者が大幅に増えるため、高所得者だけでなく中所得者まで適用から外す必要がある。今より不利になる多くの世帯からの反発は必至で、与党などで慎重論が強まり、早々に見送りが決まった。
とはいえ、安倍晋三政権は女性の就労促進など働き方改革を看板に掲げており、税制改正で「ゼロ回答」は許されない。そこで現行制度を廃止せずに手直しする妥協案が浮上し、政府税調も政治の顔色をうかがって飲み込んだ格好だ。
年収要件を103万円から拡大すればパート労働者らが働く余地は増えるが、引き上げた年収水準が新たな「壁」になる構造は変わらない。控除の対象が専業主婦やパートの妻のいる世帯に限られ、共働き世帯の不公平感も残ったままだ。
学者や経営者を中心に構成する政府税調は政治と距離を置き、税制のあるべき姿を中長期的な観点から議論するのが役割だ。だが、政治に議論が左右され、その場しのぎの提言にとどまるようでは、その存在意義も問われかねない。(万福博之)
関連記事