□山田久・日本総合研究所調査部長
今の人口減少や高齢化が進んでいく社会では、できるだけ就労を増やさないと経済社会が成り立たなくなる。女性には従来、良妻賢母で家庭を守るという社会全体の価値観があったが、時代が変わり、女性も男性と同じように社会に出てしっかり活躍してもらうという要請は高まっている。
女性が働くことが損ではないという仕組みをつくるには、待機児童ゼロや同一労働同一賃金、男女間の賃金格差是正などが必要だ。税制だけでできることはほぼないが、女性の就労を促進する所得税改革をすることで、雇用制度や社会保障制度など改革の本丸に先鞭(せんべん)をつける意味合いがある。
配偶者控除は女性の就労をはっきりと抑制している。今回、配偶者控除の廃止を見送り、控除の対象を拡大するのは、大局観のない議論で付け焼き刃の印象を持たざるを得ない。適用を受ける妻の年収要件を引き上げても次の壁をつくるだけだ。実際は次に社会保険料を支払う壁があるので、女性の就労促進にほとんど効果がないと思う。財源を確保できなければ、単に減税になり財政を悪化させる。
本来、所得税は増税しないと再分配機能は働かないが、(政府は)増税したら景気が悪くなると思い込んでおり、税制が動きにくくなっている。だが、増税しても将来の社会保障に対する信頼を上げるためのビジョンを示し、その一歩と位置付ければ、若い世代などは消費を活発化させる可能性がある。