フォルクスワーゲン、危機脱却見通せず 排ガス規制逃れ発覚から1年

 

 ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制逃れ問題が発覚して18日で1年が立った。当局の捜査や民事訴訟は今後本格化し、不正対象車のリコール(回収・無償修理)も道半ばだ。2015年12月期はリコールや訴訟の費用で巨額赤字に陥り、追加費用も予想される。信頼回復にはなお遠く、危機からの脱却は見通せない。

 「罪を認めます」。グレーのスーツ姿のVW技術者が今月9日、米中西部デトロイトの連邦地裁で、排ガス規制逃れにかかわり、大気浄化法に違反したと認めた。

 技術者は最大5年の禁固刑を受ける恐れがあり、捜査に協力する司法取引に応じる意向を表明。司法省は内部の協力者を得て、刑事責任追及も視野に捜査を加速させる方針だ。

 VWは、少数の社員の過ちが原因で「経営陣が関与していたとの証拠は見つかっていない」と説明してきた。だが、技術者の証言で組織的な不正が明確になれば窮地に立たされるのは必至。VWの規制逃れを暴いた米国が、再び「震源地」となる可能性が出てきた。

 地元ドイツでも、検察当局がVWを捜査。対象は計約30人とされ、多くの社員がかかわっていた可能性が指摘される。経営陣は含まれていないが、不正への関与の有無が最大の焦点となっている。

 「どんな負担がのしかかっても、会社は存続し続ける」。VWのミュラー会長はドイツ紙のインタビューで、危機克服に向けた決意を強調。電気自動車中心の未来戦略を雄弁に語る一方で、経営陣が規制逃れを認識していたかについては、捜査の妨害になるとして言葉を濁した。

 民事訴訟も今後、VWの大きな負担となりそうだ。VWは今年6月、違法ソフトウエアを搭載して規制を逃れた不正対象車の買い取りなどの補償を柱に、最大約153億ドル(約1兆5600億円)の支払いで米当局などと和解することで合意した。

 だが、基準の最大40倍もの窒素酸化物(NOx)を排出する規制逃れに手を染めたVWについて、自動車メーカー関係者は「米当局は、自分たちをだまして大気を汚染し、問題発覚後も隠蔽(いんぺい)しようとしたVWを許しておらず、本当のヤマ場はこれからだ」と指摘する。

 技術者の証言を得て厳しく追及する司法省とVWが和解にこぎ着けるかは依然として不透明だ。和解金はトヨタ自動車が14年に「意図しない急加速」をめぐる情報公開問題で司法省と合意した際の12億ドルを上回り、自動車メーカー1社の金額としては過去最大になる可能性があるという。

 最大約1100万台に上る対象車のリコールは16年中の完了が目標だったが、改修方法をめぐり運輸当局の認可にてこずり越年が確実な情勢。DPA通信によると、対象車のうち約520万台の許可が出たが、全体の半分程度。米国ではリコール計画を却下されるなど難航している。(ニューヨーク、ベルリン 共同)