「不安でしようがない」節約する子育て世代 消費せず、貯蓄に回す所得

 

【消費の壁】(中)

 6歳の長女、4歳の次女を持つ専業主婦(35)は、定期的に子供服のリサイクルショップに立ち寄る。昨年、この店で買った1500円の長女のジャンパーを、今年の冬は次女が着る予定だ。「子供はすぐに大きくなって、着られなくなってしまう。普段着はこれで十分」という。

 夫は一部上場企業に勤務し、収入は安定している。マンションも35年ローンを組んで、購入した。それでも、「子供の教育費用や自分たちの老後の生活設計を考えれば、消費はできるだけ抑えて、貯蓄に回しておかなければ、不安でしようがない」と本音をもらす。

 教育費や老後設計に

 政府が2日まとめた2016年度の経済財政白書は、60歳代前半の無職世帯と並んで、世帯主が39歳以下の子育て世代が、将来への不安から所得が増えても消費に抑制的だと指摘した。

 39歳以下の世帯の可処分所得は、緩やかに増加傾向にある。だが、そのうち消費に回した割合を示す平均消費性向は下落が続く。「老後の生活設計は大丈夫か」「収入は安定するのか」-。こうした将来不安で、消費者の節約志向は強まっている。

 内閣府の「国民生活に関する世論調査」によると、国民が悩みや不安を感じる事柄は、03年以降、昨年調査まで「老後の生活設計について」が首位だ。ただ、中高年層だけでなく、10年以降は39歳以下の世代の回答も増えているという。

 急がれる制度改革

 経団連の試算によると、14年度の従業員1人当たりの社会保険料負担は12年度に比べ5万円増えた。これが20年には15万円程度に増えると指摘する。将来の年金受給額が減り、医療や介護の自己負担が増える-。見通しのつかない社会保障制度の将来に対する不安は、個人の消費意識に重くのしかかる。

 三菱総合研究所の武田洋子チーフエコノミストは「これまで通りの社会保障制度が維持できるのか、と疑問に思う人は増えている」と指摘。同様に日本商工会議所の三村明夫会頭も、「消費者は将来不安から消費を抑え、貯蓄に動く」と強調した。

 安倍晋三首相は「皆年金、皆保険という世界に冠たる社会保障制度」の継続を強調する。だが、政府は社会保障の財源となる消費税率10%への引き上げ時期を、19年10月に再延期した。今後、社会保障制度を持続的なものにするためには、公的年金の支給開始年齢引き上げや、経済的に余裕のある高齢者の給付削減など、給付と負担のバランスをとる制度改革が必要になるだろう。もちろん政府の歳出改革も不可欠だ。

 社会保障改革で将来不安を払拭すれば、個人消費の拡大を阻む壁はひとつ解消する。しかし、そのためには消費税増税や“痛み”を伴う改革と、それに伴う消費の落ち込みが避けられない。政治の抱えるジレンマが、消費に重くのしかかっている。