ロボットで安全に「おもてなし」 政府、東京五輪へ運用ルール整備

 
東京都内で開かれた「ペッパー」を動かすプログラムの講習会

 自ら判断して動く自律移動型のロボットをめぐり、政府が2018年度をめどに運用ルールを整備する。ソフトバンクが6月20日に一般向けに発売したヒト型ロボット「ペッパー」が想定以上の人気を集めるなど、消費者のロボットへの関心は高い。野放しともいえる状態を続ければ、本格的な普及とともに事故が発生する危険性も高まるからだ。20年開催の東京五輪・パラリンピックでは、世界標準となるような運用ルールの下で、ロボットによる訪日外国人の「おもてなし」を実現することで、「ロボット大国」をアピールしたい考えだ。

 ペッパー販売絶好調

 ペッパーは税別で19万8000円の本体価格以外にも、アプリケーション(応用ソフト)などの利用に必要な基本プランが月額1万4800円、修理費をカバーする保険パックが同9800円と、それなりの費用がかかる。それでも6月20日の初回分と7月31日の2回目分は各1000台がいずれも1分で完売し、販売は絶好調といっていい。

 想定を上回る引き合いの多さから、ソフトバンクの孫正義社長は「(量産体制を整え)少なくとも月産1000台を目指す」と家庭への浸透に意欲を見せる。ペッパーの登場で「一家に1台のロボット」という時代は遠い未来ではなく、近い将来に迫ってきたとの見方もある。

 もっとも「世界一のロボット利活用社会」の実現を掲げる政府は、このペッパーの人気ぶりを手放しで喜んではいない。普及が進めば進むほどペッパーを改造して利用されるケースが増え、思わぬ事故が発生しかねないからだ。

 「極端にいえば、障害物に当たっても停止する機能がないまま、公道でペッパーを時速10キロくらいで動かしたらどうなるかということだ。新しい技術の普及スピードに対応した社会づくりをしなくてはいけない」と政府関係者は説明する。ペッパーは開発者向けのモデルも展開しており、関連のイベントでは独自に改造されたペッパーが展示されることもあるという。

 小型無人機「ドローン」の事故の多発も、自律移動型ロボットのルール整備を政府に急がせる要因となったようだ。それだけでなく「ペッパーは、まだかわいい方かもしれない。世界ではとんでもないロボットが開発されている」と、政府関係者は指摘する。そのロボットは乗り物などに変形する「トランスフォーマー」だという。

 変形ロボ開発も

 トランスフォーマーはロボット同士が戦う架空の物語で、マンガやアニメに加え、映画化もされて世界中で人気を集めている。現実の世界にも登場させようと、ロボット制御ソフトメーカーのアスラテック(東京)とブレイブロボティックス(埼玉県朝霞市)が共同で、全長約3.5メートルの変形ロボットの開発に着手し始めたのだ。

 計画では、二足歩行が可能なヒト型(ロボットモード)と、人が乗って運転できる車型(ビークルモード)に変形できるロボットで、無線による遠隔操縦も可能とする。17年中の完成を目指しているという。

 「このロボットが自律移動型の機能を持つとなると、ロボットに関するルールだけでなく、道路交通法など幅広い規制も必要になる」(政府関係者)と、懸念は尽きない。

 人と触れ合う場へのロボットの登場で、今後起こり得るさまざまな問題に対処しようと政府は動き始めた。自律移動型ロボットのルール作りに向け、国内外の企業・団体からモデルとなる自律移動型ロボットを17年度に公募し、成田、羽田の両空港や日本科学未来館など先端施設がある東京・台場などで18年度に実証実験をスタートさせることになりそうだ。

 政府はこの実験を通じ、人の安全性を確保するための分析も行い、ルール作りを進める。具体的にはロボットの動作速度や大きさ、外装の素材などの規定のほか、障害物などに衝突した場合に自動停止する機能の義務付けなどの規制も検討する方針とみられる。

 現状では、自律移動型ロボットの運用をめぐる詳細な公的ルールや法規制はないが、既に一部施設などでは来館者を案内するロボットや施設内の清掃、警備・巡回を行うロボット、荷物を運搬するロボットなどが利用されている実態もあり、ルール作りは急務といってもいい。

 最新作が7月に公開された映画「ターミネーター」で展開される人類とロボットが戦う事態は想定外としても、SF小説で描かれるようにロボットの運用を本格的に規制する時代が近い将来到来するのは間違いない。(西村利也)