ゆえに感じる「気配」
そういう点では、この公演でコアオブベルズが来場者に感じさせようとしたのは、気配なのかもしれない。見るものがなにもないからといって、感じるものまでなにもないとは限らない。日常ではとうていありえない大音量に全身を包まれているからこそ、かえって、はじめて感じることができることだってあるだろう。場合によっては、錯覚や白昼夢のように、ないはずのものが、蜃気楼(しんきろう)のように浮かび上がってくることだってあるかもしれない。
これは、私が足を運んだ一夜に限らない。実は本公演「重力放射の夜」は、彼らの名で組まれ、1カ月に1回のペースで、計1年にわたる連続企画「怪物さんと退屈くんの12ヵ月」のうちの5月の一夜(第5回)だったのである。
毎回様変わりさせて
全体を通じてのタイトルにあるとおり、この企画が主題にしているのは、「怪物」と「退屈」という、およそ相対立するふたつの要素の共存関係だろう。もしも本物の怪物に出くわしたら、誰も退屈する者などおるまい。身を守るのに必死になるはずだ。けれども、怪物が実体ではなく、気配のようなものにすぎなかったとしたら、どうだろう。まったく反対に、自分は平気だとばかりに、かえって平静を保とうとし、退屈さえ装ったりしないだろうか。