最後のどんでん返しも鮮やかです。一方向に進んでいた恐怖が、たったワンシーン、たった一文、たった一言のモノローグで、それまでとは違った顔を見せる。超常現象的な恐怖が、人間そのものの持つリアルな恐怖にすりかわったりもします。異なる方向から見た顔が生む新たな恐れは、淡々と冷静な文章で書かれますが、そこで小説の幕が下りることにより、読者に想像の余地を残すのです。読者は新しい顔に驚き、言葉として明確に表現されていない『その先』を思い、よりいっそうの怖さに戦慄します。表されていないだけに、イマジネーションのふくらみは限度を知りません。
ちょっと外れた世界
本当は『怖いもの』なんてないほうが、人生は楽しいはずです。けれども、私はどうしてか、現実からちょっと外れた世界を夢見てしまいます。怖いかもしれないけれど、今いるここだけがすべてじゃない、ということに、奇妙なロマンを感じてしまうのです。