そこに一歩足を踏み入れた瞬間、まるで世界が滅びたあとに自分だけが取り残されてしまったような錯覚に陥った。
空高くそびえ立つコンクリートの高層鉄筋住宅群は朽ち果て、窓はほとんどが割れてしまっている。足下にはバラバラになった木材やコンクリート片が散乱する。聞こえてくるのは寂しげな風の音だけだ。
長崎港から船に揺られること約40分で、長崎市の中心部から南西に約19キロの沖合に浮かぶ通称、軍艦島(ぐんかんじま)に着いた。
南北約480メートル、東西に約160メートル、周囲約1.2キロ。島影が軍艦「土佐」に似ていたことからこう呼ばれるが、正式名称は端島(はしま)という。かつて海底炭鉱で栄え日本の近代化を支えたが、石炭から石油へとエネルギー政策が転換したことなどから1974(昭和49)年に閉山。炭鉱施設の多くは解体され、現在は高層住宅群だけが残る「廃虚の島」だ。「廃虚ファンの聖地」とも呼ばれる。