だが、こうした娯楽的な要素だけでなく、番組製作者と視聴者によるコラボレーション、さらには作り手の志の高さも感じられ、そこにこれからのテレビへの希望が見えた。
筆者は、紅白が記憶の風化も指摘される東日本大震災をどう扱うかに注目していた。震災は地震や津波、原発事故による物理的、経済的損害だけではなく、被災地の住民に精神的な傷としてのトラウマを与えた。だから、「被災者に寄り添う」という呪文だけではどうにもならない。筆者も何回か三陸海岸沿いの被災地を訪れているがそのたびに暗澹(あんたん)たる気持ちになった。
そんな中で、NHKは紅組司会者に大河ドラマ「八重の桜」で福島生まれのヒロイン新島八重(にいじま・やえ)を演じた綾瀬はるかさんを起用した。八重は独立した女性としての輝ける生き方を示すと同時に、その夫で同志社大学創立者の新島襄(じょう)を励まし続けた。