本としてはページ数が多めではありますが、その厚みをまったく感じさせない巧みな文章もあいまって、ぐいぐい引き込まれます。
そしてなによりも、登場人物すべてのキャラが立っている。これはすごいことです。箱根の1区から10区を走る10人のメインキャラクターはもちろん、チームの名ばかり監督、対立する名門大学の選手、むさくるしい男連中の中に可憐な色を添える八百屋のお嬢さん。誰か一人欠けても、きっとこの物語は成立しない、そう思うと、『風が強く吹いている』この作品自体が、もはや駅伝の要素を兼ね備えているといっても、過言ではない気がします。
おのれと向き合う
後半、箱根路を走る10人は、その区間で1人になります。彼らは走りながら、そこでおのれと向き合います。10人の中でも、最初から陸上の実力を有する2人が、この物語を通しては主役格として話は進行していきますが、この箱根路の場面では、まるでスポットライトが一人一人に次々当たっていくように、自分にあてがわれた区間をひたむきに、自分の力で、自分のやり方で走る、そのとき襷を持っている人物が、主役になります。