国歌斉唱のセレモニーでは正装に身を固めた海上自衛隊東京音楽隊の三宅由佳莉三等海曹が君が代を歌った。凛(りん)として、清々として、おごそかに秩父宮の空気を変えた。
オールブラックスは闘争舞踊「ハカ」でこれに応えた。「カマテ カマテ カオラ カオラ テネイ テ タンガタ プフルフル(私は死ぬ、死ぬ。私は生きる、生きる。見よこの勇気ある者を)」。迫力に気おされぬよう、ジャパン戦士らは肩を組み、裂帛(れっぱく)の視線で押し返す。
ああこれが、オールブラックスとのテストマッチなのだな、と。スタンドで見ることができた幸運を、2万人が感じたに違いない。
序盤の互角の展開にこそ大きな声援が飛んだが、オールブラックスがトライを重ねるにつれ、本当にここに2万人もいるのか、と思うほど静かになった。