黒がベースの車体を華やかに彩るのは、写真家で映画監督の蜷川実花さんの作品だ。長岡花火をモチーフにしたアートで、独特の艶やかな発色が“蜷川実花の世界観”を表現している。越後湯沢駅のホームで、にこやかに手を振りながら「GENBI現美」を見送る駅員さんたちと並び、走り去る「GENBI現美」の姿を目に焼き付けた。めくるめく色にうっとりしていると、つかつかとやって来たのは、デビュー以来「GENBI現美」を見守り続けているという初老の警備員さん。なんでもこの列車は逆サイドのアートがまたすばらしく、両面を見てはじめて「GENBI現美」を見たことになるとか。
なるほど……。手の届かないブドウは酸っぱいし、逃した魚は大きいもの。ポスターで確認した“見られなかった片面”は、私が見た側より美しい……ような気がする。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら