どこまでも広がる乾いた大地をクルマで走っていると、もはや使われなくなった廃線跡が、いきなり目に飛び込んでくる。国によっては廃線跡が公園になったり、ハイキングをしたり、次の役目を与えられる線路もあるけれど、こんなに荒涼とした大地に取り残されたら、いったいどうしたらよいのだろう。
クルマがびゅんびゅん飛ばす舗装道路の脇に、いまは使われなくなったレンガ造りの駅舎が佇んでいた。壊されもせず、けれども誰からも見向きもされていない。
ここにいたのは、野良犬と少年たちだけだ。子犬を守るために気性が荒くなっている母犬を刺激しないように、そっと足音を忍ばせて子どもたちが近づいてきた。「アッサラーム・アレイコム」。唯一覚えたアラビア語で話しかけると、たちまち相好を崩す。お兄ちゃんから順に6歳のムハンマド、5歳のウサマ、3歳のハムザは、動いている鉄道を見たことが一度もないそうだ。
高速道路を走っていたときには「こっちの道はイエメン」なんていう衝撃的な標識も見かけた。この子たちが大人になるころには、白茶けた砂をまき上げながら、新型の列車がヨルダンを起点に、サウジアラビアやイエメン、パレスチナあたりをつないで走っているといいなと心から思う。
取材協力:JICAヨルダン事務所
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら