和諧長城号(2)鉄道旅の楽しみは“買い食い”と“アツアツのお茶”
江藤詩文の世界鉄道旅制服を着用した、白髪混じりの車掌が姿を見せると、周りの乗客はごそごそときっぷを取り出しはじめた。私が乗車したのは二等車の5号車。二等車は通路を挟んで2席と3席が配置されている。真ん中よりやや後ろよりの3席並びの真ん中になんとか滑り込んだ。
何となく肌寒くてコートを着込んだまま、雪景色の車窓を眺めて検札を待つ。どこの国へ行っても、日本の新幹線のように手早くスムーズにはいかないものだ。が、それにしてもえらく時間がかかっているではないか。
様子を伺いたくて首を伸ばすと、車掌は車内販売のワゴンを押しながら、乗車券を確認している。というか、見ている限り全員が何かを買っている。あとで自分に番になって誤解だとわかるのだが、そのときは破格の運賃に驚いていたこともあって、「観光列車だし、運賃がこれだけ安いということは、何か購入する義務があるのではないか」と、本気で思ってしまった。だってそう思うくらい、全員が何かを買っていたのですよ。ちなみに私が買ったペットボトル入りの水は2元(約37円)。やっぱ安い。
寒いこともあり、圧倒的に売れていたのは種類豊富なカップ麺。なぜなら売店に行けば、お湯が無料でもらえるから。マイ水筒に茶葉を入れ、お湯を汲んでくる風景がいかにも中国らしい。水筒を持ち歩くのは、なかなかいいアイデアではないか。ひっきりなしに売店へ行き来する乗客で通路はごった返し、車内にはカップ麺特有の脂としょう油の混ざったような匂いが立ち込めた。せっかく確保した座席を手放して、食堂車をのぞいてみた。
売店脇のスペースでは、座席にあぶれた乗客が立ち、スマホをいじったり車窓を眺めたり。外国人観光客の姿も見える。売店のおじさんと目が合うと、身ぶりで「水筒はないのか」と聞いてくれる。水筒はないけれど、ビールでも飲んじゃおうかな。窓の外は青空に粉雪。レンジで加熱していたポップコーンがぱちぱちと弾け、バターの溶けるいい香りが漂った。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら
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