人は何歳になっても学べる 「生涯学習」で人生を豊かに
「生涯学習」という言葉が一般的になって久しい。何かを学びたいという意欲を持っている人は少なくないはずだ。それでも、加齢による記憶力の減退などを理由に、一歩を踏み出せないということもある。歴史的人物の偉業から、人は何歳になっても学べることが立証されている。(櫛田寿宏)
経験を積んだ今こそ
放送大学教養学部の全科履修生として学ぶ伊藤清さん(72)=千葉市稲毛区=は、長く勤めた仕事を辞めた平成26年に入学した。「4年間では難しいかもしれないが、いずれは卒業する」という目標を掲げている。
伊藤さんは高校卒業後、金融機関に就職した。職場の仲間たちのほとんどは大学を卒業している。周囲の勧めもあり、夜間の大学に通い卒業した。「当時は知識を詰め込むだけで精いっぱいでした。その頃から、いずれは好きなことを楽しみながら学びたいという夢を持つようになりました」。経験を積んだ今だからこそ深く理解できることは多いといい、「年齢は勉強をあきらめる理由にはなりません」と話す。
放送大学(千葉市)はテレビやラジオ、インターネットを介して学ぶ、文部科学省と総務省所管の大学だ。15歳以上であれば入学でき(選科履修生、科目履修生)、全国で約9万人が学んでいる。年代層としては30代、40代が中心だが、定年退職後という人も多い。同大広報課の座間直樹さんは「毎年のように90代で卒業する人がいます」と話す。
第二の人生輝かせる
「人生50年」といわれた時代にも、「天命を知る」年齢から勉強を始めた人物はいる。その一人が、全国を実測して初の正確な日本地図を作成した伊能忠敬(1745~1818年)だ。商人として成功したあと隠居し、地図を作るため50歳から本格的に「天文暦学」を学んだ。
伊能忠敬記念館(千葉県香取市)の山口真輝さんは「まだ天文暦学が体系的に確立されていなかった時代だったので相当苦労して学んだはず。だが、新しい学問に対する知的好奇心が大きかったのでしょう」と推し量る。
ホメロスの叙事詩を信じて古代都市、トロイアの発掘に成功したドイツのハインリッヒ・シュリーマン(1822~90年)も40歳を過ぎてから考古学を学んだという。
実業家として財をなしたシュリーマンは、その財産を発掘につぎ込んだ。たくさんの言語をマスターしたことでも知られ、約20カ国語を操ったとされる。人並み外れた強い意志の持ち主だったことは間違いなさそうだ。
シュリーマンの生涯に詳しい天理大付属天理参考館(奈良県天理市)の学芸員、巽善信さんは「第二の人生でそれまでと全く違うことに挑戦し、歴史に名を残した。いくつになっても学ぶことはできると証明した偉人だ」と語る。
一層やる気に
勉強を長く続けるコツは何だろうか。学びに詳しい心療内科医、「本郷赤門前クリニック」(東京都文京区)の吉田たかよし院長は、「やる気があるから勉強をするというのはもちろんだが、脳は勉強することで一層やる気が高まるという性質を持っている。まずは小さな一歩を踏み出すことが大事」と話す。
吉田院長は、アルツハイマー型認知症などでない限り、「記憶力が加齢によって大きく低下することはない」と説明する。ただ、「筋肉と一緒で脳も使わないと衰える」。生涯学び続けることは、人生を一層、充実させてくれそうだ。
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