イクジイによる「孫育て」、自治体の支援拡大 世代間交流で地域活性化

 
「孫育て講座」では離乳食の与え方や生活習慣など子育てに関する世代間ギャップを埋める=千葉市稲毛区

 「イクジイ」という言葉が使われはじめ、祖父母による「孫育て」への関心が高まる中、シニア向けの孫育て講座や自治体による支援が広がりつつある。安心して子育てができる環境づくりや世代間の交流を促進し、地域の活性化につなげようという狙いもあるようだ。(平沢裕子)

 変わる環境

 「一人っ子同士の結婚で生まれた子供には、いとこやおじさん、おばさん、めいっ子、おいっ子がいない。ご近所のつながりも昔に比べると希薄です。そんな中で、子供たちが育っているんだということを、まず理解してください」

 11月2日、千葉市で開催された孫育て講座。講師を務めるNPO法人「孫育て・ニッポン」の棒田明子理事長が最近の子育て事情を説明すると、受講者十数人が大きくうなずいた。

 同講座は、千葉市社会福祉協議会稲毛区事務所が企画した「シニアのゆるやか地域デビュー体験講座」の一コマ。シニア世代に地域の子育てアドバイザーとしての役割を担ってもらおうと今年から始めたものだ。同事務所の勝山圭子主任主事は「今のシニア世代はすごく元気。自分の孫だけでなく、地域の子育てに積極的にかかわってもらえれば」と期待を込める。

 千葉市の主婦、坂部京子さん(62)は来年1月、3人目の孫が生まれることをきっかけに受講した。「初めての内孫。最初の孫はもう20歳なので、その頃と子育ての様子が全然違うことがよく分かった。お嫁さんは出産後も仕事を続けるので、私ができることは手伝いたい」

 平成24年度から孫育て講座を実施している堺市。当初はシニア世代向けだったが、昨年度からは子育て世代も対象にし、世代間交流ができるようにした。同市子育て支援課は「子育ては時代とともに変化するが、昔から受け継がれている知恵もたくさんある。講座で子育てや孫育てのヒントを見つけてもらいたい」と狙いを説明する。

 一時預かりや奨励金

 孫育てをする祖父母を支援する自治体もある。福井市は6月、父母に代わり日常的に0歳の孫やひ孫を保育する祖父母や曽祖父母を対象に一時預かり施設の利用券の発行を始めた。同市では共働き率が高く、3世代同居や近居で孫育てをしているシニア世代が多いことから企画した。

 10月末までの利用者は17人。「息抜きができてよかった」などの声が寄せられているという。同市子育て支援室は「孫育てをしている方たちにも何らかの支援が必要。自分の親に保育を頼んでいる子供が申し込んでプレゼントするケースもあった」と話す。

 一方、岡山県は今年度から従業員に「孫育て休暇」を取得させた企業に奨励金を支給する制度を開始した。就業規則などで「孫育て休暇」を定める県内の事業所(従業員300人以下)で、従業員が1日以上の休暇をとった場合、5万円を支給する。これまでに製造業やIT企業など5社から申し込みがあった。

 同県子ども未来課の田中信雄主任は「定年延長で65歳まで働く人が増え、孫がいる人も多い。特に子供世帯が共働きの場合、祖父母が一肌脱いで育児を手伝っているようだ」と話す。

 シニアにもメリット

 女性の社会進出で、夫婦共働きが増える一方、元気で時間的に余裕のあるシニアも増加している。自治体が孫育て支援に力を入れる背景には、子育てを親に頼りたい子供世代と、時間を有効に使いたいシニア世代のニーズのマッチングがある。

 孫育て講座で講師を務める棒田理事長は「孫育てを通じて地域とつながることは、シニア世代にとってメリットになる」とする。ただ、動き回る子供の世話が体力的に負担になることもある。「孫育てのポイントは自分も楽しみ、無理をしないこと。手や口を出しすぎず、ほどほどに」とアドバイスしている。