自治体による独自調査の対象がくい打ち業界全体に広がりつつある。施工管理能力が高いとされる大手ゼネコンが元請けの現場でもデータ偽装が発覚。建設業界には衝撃が走っているが、調査対象の拡大にゼネコン各社は「建物が多すぎる」と後ろ向きだ。当事者であるくい打ち業界は、固く口を閉ざしている。
ゼネコン各社は国土交通省の指示を受け、旭化成建材が過去約10年間にくい打ち工事を実施した3040件のうち、元請けを担った分については旭化成建材と並行してダブルチェック態勢で調査している。
不正の有無については各社とも「調査中」とするが、11月に入り大手ゼネコンの清水建設が元請けだった大規模工場や特別養護老人ホームで偽装が判明。施工管理能力については「一般的に大企業の方がマンパワーやマニュアルが整っていて能力は高い」(日本建設業連合会)とされるだけに、業界内は「次はうちかも…」と戦々恐々だ。
偽装に関わった現場管理者が相次いで見つかっているが、専門的な技術が必要なため複数の会社を渡り歩くことが多い。旭化成建材でも「現場管理者の雇用形態はいろいろある」と話しており、問題は同業他社に波及する可能性が強まったといえる。
ただ、調査の対象拡大について、清水建設は「(元請けとなった物件は)全国に何千、何万棟とある。建設業界の活動が止まってしまう」。大手ゼネコンの鹿島建設は「今の(旭化成建材分の)調査でそれどころではない」とし、今後についても「国から指示があれば対応する」と及び腰だ。
一方、くい打ち業者は全国で450社以上あり、大半が小規模企業のため、調査実施には難航が予想される。国交省幹部は「調査には時間もお金もかかる。建設不況になりかねない」と指摘。くい打ち業者側は「答えられない」「お話しすることはない」などと一様に口をつぐむ。
建設業界に詳しい北海道大大学院工学研究院の高野伸栄教授は「データの流用と建物の安全性は別の話。全ての建物を調査するのは無理で、階数の高さや地盤の強弱といった重要度、施工管理態勢がしっかりしていたかなどを基準に、対象を絞った調査を考える必要がある」と指摘している。