このようにして、経営上極めて重要な投資案が採択されている。それにも関わらず、かなり多くの投資は失敗に終わる。検討した時点で、想定しなかった事態が投資後に生じることもあるだろう。為替の大幅な変動、予期できなかった急速な技術進歩、地勢的なリスクの顕在化などがその代表例である。しかしながら、これらの要因だけが投資の失敗原因なのだろうか。そうではないとすれば、投資決定のプロセスにどのような問題があるのだろうか。以下では、多くの日本企業に共通する投資に関わる実務を見ていきたい。
トップ層の意向を忖度し分析数字を操作する
まず指摘したいのは、多くの企業が「3年で単年度黒字、5年で累積損失一掃」(以下では「3(年)-5(年)ルール」と略称する)といった投資採算性確保に関するルールを持つ傾向があることである。3年とか5年とかという期間を問題としているわけではない。投資は、できるだけ早期に回収したいと誰でもが考える。ビジネスは、まず、多額のキャッシュ・アウトフローから出発する。「投資なくして、利益なし」はビジネスの基本である。利益はすぐには得られないので、一定期間は、損失を計上することになるだろう。
一定期間(助走期間)を経て、企業は単年度で利益を計上する。つまり、その年度から、投資額と累積損失の回収に入るのである。「単年度で黒字を計上できるのは、だいたい3年後くらい」というのは、感覚的には納得できるものである。そして、投資が効果を上げ始め5年もたてば、累積損失が一掃され、その後に利益が計上されるだろうという期待を持つことも、ある意味、極めて常識的であるといって良いだろう。しかし、この期待・願望に基づく常識が、投資の失敗を誘発しているのである。